咆哮と彷徨の記録

                              






■『怪笑小説』、『黒笑小説』、『毒笑小説』



東野圭吾 集英社

三作まとめて紹介する。

最初に紹介するのは、『怪笑小説』。

「鬱憤電車」、「おっかけバアさん」、「一徹おやじ」、「逆転同窓会」、「超たぬき理論」、「無人島大相撲中継」、「しかばね台分譲住宅」、「あるジーサンに線香を」、「動物家族」の短編小説で構成されている。

タイトルどおり“怪しい笑い”がつめこまれた一冊…と紹介したいところだが、全部が全部笑えるというわけではない。

「鬱憤電車」、「おっかけバアサン」、「あるジーサンに線香を」などは、登場人物に共感でき、著者の人間観察の鋭さがよく表れている。

笑いという点では、「超たぬき理論」がすばらしい。

この理論の発想とこじつけには頭が下がる。立ち読みするさいはここを必ず読んでもらいたい


次に紹介するのは『黒笑小説』。

「もうひとつの助走」、「巨乳妄想症候群」、「インポグラ」、「みえすぎ」、「モテモテ・スプレー」、「線香花火」、「過去の人」、「シンデレラ白夜行」、「ストーカー入門」、「臨界家族」、「笑わない男」、「奇跡の一枚」、「選考会」の短編小説で構成されている。

これはタイトルどおり、ブラックユーモアの部類に入る小説と解釈してよいだろう。

「もうひとつの助走」、「線香花火」、「過去の人」、「選考会」は小説家がらみの話。

著者の経験や推測が活かされているのかもしれない。

おすすめは、「巨乳妄想症候群」。掲示板で鉄男くんがすすめてくれたもの。

立ち読みするさいは、ここを読めば損はないと思う。


最後に紹介するのは『毒笑小説』。

「誘拐天国」、「エンジェル」、「手作りマダム」、「マニュアル警察」、「ホームアローンじいさん」、「花婿人形」、「女流作家」、「殺意取扱説明書」、「つぐない」、「栄光の証言」、「本格推理関連グッズ鑑定ショー」、「誘拐電話網」の短編小説で構成されている。

これまたタイトルどおり毒の利いた内容。

おすすめは「エンジェル」、「マニュアル警察」、「ホームアローンじいさん」。

■『海賊オッカムの至宝〜RIPTIDE〜』06/04/01UP



ダグラス・プレストン&リンカーン・チャイルド Douglas Preston、 Lincoln Child

訳:宮脇孝雄 講談社

〜あらすじ〜

17世紀に略奪を繰り返し、莫大な資産を持っていた海賊エドワード・オッカム。

彼の資産の隠し場所としてメーン州のノコギリ島が有力視されていたが、水地獄というしかけが施されていて、トレジャーハンターの多くが失敗してきた。

医者のマリン・ハッチはノコギリ島の所有者となったA.W.ハッチ・シニアの孫。

幼い頃兄をその島で失くしたため、島の所有者でありながらも発掘を申し出るトレジャーハンター達を追い払ってきた。

そんなある日、宝探しの専門家サラサの現場責任者であるジェラルド・ナイデルマンがハッチに発掘許可を求めてやってくる。

今度も失敗すると相手にしないハッチでしたが、水地獄の設計者を知っているということで発掘を許可する。

かくしてノコギリ島で宝探しが始まる。


17世紀に暴れまわった海賊の宝探しが本筋だが、決してアドベンチャーではない。

この本は、冒険小説、宝探し、最先端テクノロジーと興味をそそる要素が十分に揃っていたためブックオフで購入した。

率直な話、本で読む宝探しは想像力がないとさっぱりわからない

自分の知識不足でもあるわけだが、宝探しに使われる器具名がさっぱり想像できなかった。

序盤は退屈、後半も盛り上がりに欠ける内容で、宝探しに踊らされた自分が恥ずかしい。

想像力がある、海賊のお宝に興味がある、ワンピースを狙っているという方は、読んでもいいかも。




■『風の影〜LA SOMBRA DEL VIENTO〜』07/01/02UP



カルロス・ルイス・サフォン Carlos Ruiz Zaf´on

訳:木村裕美 集英社

フリアン・カラックスとは誰か?

〜あらすじ〜

11才になろうというある日ダニエル・センペーレは父に連れられ“忘れられた本の墓場”へ。そこでフリアン・カラックスの『風の影』を手に入れる。

その本に魅了されたダニエルはフリアン・カラックスについて調べはじめる。

本をめぐる話ということで、『ヒストリアン』によく似ています。フリアン・カラックスをめぐるダニエルの調査(現在)と調査途中で明らかになっていくフリアン・カラックス(過去)の話の2本立てで進行していく。

1940年代のバルセロナを舞台にフリアン・カラックスの生涯が少しずつ明らかになっていくところは圧巻の描写力で、ダニエルに警告をあたえる顔のない男の不気味さは筆舌では書きつくせない。

昼夜の書き分けもうまく、光と影の街バルセロナがよく表されている。

謎の作家フリアン、その親友ミケル、フェルナンド、フメロ、ホルヘ、恋人ペネロペ

ダニエルとフリアンの物語がシンクロしていくさまなど最後まで目が離せない一作。

ライン・クーベルトと名乗る顔なしの男の正体が一番気になるところ。

予想しながら読むことをおすすめする。ほぼ100%的中するとは思うが。




片想い』06/12/16UP



東野圭吾 文藝春秋

男と女をどう区別するのか

〜あらすじ〜

フリーライターの西脇哲朗は、大学アメフト部の飲み会に参加した帰り、マネージャーだった美月と再会する。しかし、彼女の外見は男性となっていて、人を殺したという。


性同一性障害、トランスジェンダーという言葉を聞いたのは、『相棒』で高橋由美子が尼僧で登場した時に知った。

実は双子の弟が姉になりすましていたという話だったのだが、この本も自分の体と心が合っていないという人物が多数登場する

主人公の西脇哲朗は、一般人として事件を追ううちに彼らと出会い、男女の区別について再認識し、事件の真相に迫っていく。

自分が全く知らない社会の闇部分のようで、あまり興味はなかったが、作者の深い考察の後が見られる

自分でつけたキャッチコピーの「男と女をどう区別するのか」という命題に対して、一つの答えを提示してあるこの本をぜひ読んでもらいたい。

アメフトも少なからず関わってくるので、『アイシールド21』で予備知識を入れておいてもいいかもしれない。

■『片眼の猿』11/09/14UP



道尾秀介 新潮社

ワケありの探偵事務所

三梨幸一郎、職業私立探偵。

盗聴を専門としていて、今回は、技術窃盗の疑いのある黒井楽器について調査中だ。

調査中に耳にした目に特徴のある女性夏川冬絵を自分の探偵事務所に引っ張りこむ。

ある夜、調査していた三梨の耳に殺人事件の肉声が飛び込んでくる。

彼が事務所をかまえるアパートにはいろんな人物が住んでいて、なにかと三梨にちょっかいを出してくるのだが、実は驚きの秘密を持っているというオチだ。

これは叙述上のトリックというのだろうか、前半から謎めいた描写が多いのだが、

それが、三梨の言葉とこのタイトルに集約されているといってもいいだろう。

続編はないだろうし、映像化も不可能だが、続きを読んでみたくなる作品だ。

■『カッコウの卵は誰のもの』11/03/19UP



東野圭吾 光文社

運動に適した遺伝子パターン

緋田宏昌はかつてアルペンスキーでオリンピックに出場したことがある男で、現在はジムのインストラクターだった。

彼の娘風美はアルペンスキーの期待のホープで、この親子に目をつけた柚木は、運動に適した遺伝子の研究に協力してくれるよう緋田に頼み込む。

そんなときに、風美のW杯への出場をやめさせろという脅迫状が送られてくる。

表題どおり、この卵は風美のことを指している。

実は、緋田の娘ではないということがわかり、事態は急展開する。

遠征中に妻が出産したと思っていた宏昌だったが、実は流産していて、風美は実の娘でないと知りつつ育ててきた。

遺伝子でスポーツ選手の能力がある程度決まるというのはなんとなく、納得がいく。

レ( ̄ー ̄)ナットク!!( ̄^ ̄/)

作中にもあった100mの決勝には黒人ばかりなのがその証拠だろう。

そのうち機動戦士ガンダムSEEDみたいに人間の遺伝子組み換えなんてのもあるかもしれない。

…o(;-_-;)oドキドキ

そういう遺伝子研究に携わっている柚木がもう一人の主人公で、風美の警護や脅迫事件の調査、そして緋田と密接にかかわっている。

才能を見出されることはすばらしいように思えるのだが、要は人の考え方次第ということだろうか、そんなことも考えさせられる一冊である。



■『がばいばあちゃんの笑顔でいきんしゃい!』07/04/24UP



島田洋七 徳間書店

おばあちゃんのパワフル子育て

『佐賀のがばいばあちゃん』と同じく幼少の頃佐賀で育った島田洋七氏のおばあちゃんとの生活を綴ったものだ。

ただ、前作はあくまでも島田氏本人の幼少時のエッセイだったが、本作は、主人公がばあちゃんとなっている。

つまり幼少時の島田氏からみたおサノばあちゃんの暮らしぶりといったところだ。

島田氏との会話の端々にみられるユーモアのセンスとおサノ語録は一段と磨きがかかっている。



■『がばいばあちゃんの幸せのトランク』07/04/24UP



シリーズ3作目。

1作目『佐賀のがばいばあちゃん』、2作目『がばいばあちゃんの笑顔でいきんしゃい』と違って本作は、ほぼ島田洋七氏の半自伝的エッセイだ。

1,2の舞台が島田氏の中学生の頃までだったが、本作の舞台は中学を卒業した後の話だ。

つまり佐賀を離れたあとの生活だ。

彼が芸人を目指す前、なった後の苦労話の裏には、おサノおばあちゃんの精神的支え、教育が根底にあったことを知ることができる本だ。

自己啓発の本よりも彼女の生き様が1,2で丁寧に描かれていた分、人生の指針たるものを示してくれそうなお話だ。

島田氏に講演の依頼があるのも十分に理解できる。

2冊とも1時間ほどで読み終えることができるので、小旅行に持っていってはどうだろうか。

■『仮面山荘殺人事件』07/05/31UP



東野圭吾 講談社

超意外な犯人

〜あらすじ〜

結婚式の1週間前に謎の転落死をとげた森崎朋美。

彼女と結婚するはずだった樫間高之。

彼女の死から3ヶ月後、朋美の父伸彦から別荘にこないかと誘われる。

登場人物は、

樫間高之…朋美の婚約者だった。 森崎朋美…高之と結婚する1週間前に死亡。

森崎伸彦…朋美の父、製薬会社社長。 森崎利明…朋美の兄。

森崎厚子…朋美の母。           篠雪絵…厚子の弟一正の娘。

木戸…厚子の弟一正の主治医。     阿川桂子…朋美の親友。

下条玲子…伸彦の新しい秘書。

朋美は死んでいるので、実際別荘に集まるのは8人だ。

阿川桂子が朋美の転落死について不審な点があると言い出し、朋美は殺されたのではないかという話になる。

閉ざされた空間、資産家と殺人事件がおこるとしか思えないシチュエーションだ。

と思いきや、ストレートど真ん中の連続殺人事件がおこるというわけではない。

意外な展開が待っている。

仮面がタイトルにつくぐらいだから、仮面舞踏会があるとかそういうわけではないが、肩すかしをくらうような展開だ。

それよりも別荘というのがうらやましい。

よく父と登る多良岳だが、休憩所として金泉寺というのがある。

中山キャンプ場から登るとほどよい距離にあるためよくそこで休憩するのだが、そこが昼寝には最適のベストプレイスなのだ。

35度ぐらいまであがった猛暑日でさえも、24度ぐらいの天然クーラー。

木々に囲まれ、マイナスイオンたっぷりと真の癒し系空間。

自分にとってはそこが別荘みたいなものだ。

今年の夏はいけそうにないが、ニュージーランドではトレッキングが盛んらしいので、同じような経験ができればいいが。

■『カラスの親指』12/11/01UP



道尾秀介 講談社

サギ師たちの人生

武沢竹夫46歳は妻と娘をなくしてから詐欺師として暮らしていた。

そんな彼のもとに入川鉄巳ことテツさんが転がり込んできた。

暗い過去をもつ二人だったが、楽しく暮らしていた。

そんなある日、武沢のアパートが火事に遭う。

家を失った二人は、荒川でアパートを探す。

あらすじをこれ以上書くのは面倒なので感想へ。

相変わらず、道尾さんの作品はどんでん返しがすごい。

最近読んだ綾辻行人氏の『館』シリーズもそうだったが、ラストに得られる驚き、あっといわせる文章はさすがの一言だ。

お金に深く関わる人生を送ってきた武沢は、ある取立てやからの報復を恐れている。

彼に取立て屋の影が迫り、ついに取立て屋と対決することを決意する。

道尾さんの作品は、主人公に特殊能力がある人物が多いが、この武沢という人物にはなく、トリックの鍵は彼が握っていない。

そういうわけで自分はまんまと作者の仕掛けにはまってしまった。

■『ガリレオの苦悩』09/04/27UP



東野圭吾 文藝春秋

ガリレオ短篇集最新作

2007年の冬のドラマ、2008年の映画公開ですっかりおなじみのガリレオシリーズ最新作だ。

映画公開前にテレビ放送された『ガリレオΦ』のオリジナルが入っている。

エピソードは、「落下る」、「操縦る」、「密室る」、「指標す」、「攪乱す」の5つ。

ちなみにオリジナルは前の2つ、「落下る」と「操縦る」が連結してドラマで放送された。

トリックは同じだが、人物設定が違う。

落下るは『容疑者Xの献身』後といった感じで、非協力的な湯川准教授が登場する。

そして、テレビ版でおなじみ内海薫刑事が登場する。

彼女と湯川のやりとりが読めるのはおもしろい。

草薙刑事から内海刑事へと相棒がかわっているので、ドラマのファンも読んで損はない。

事件前と後の草薙刑事とのやりとりが少なくなったことは残念だが、とてもおもしろかった。

ドラマの影響か湯川が福山雅治に、内海が柴咲コウにみえてくるから不思議だ。

個人的におすすめは最後の「攪乱す」だ。

湯川に恨みをもつ科学者が“悪魔の手”をつかって、次々と人を殺していくという話だ。

この話はドラマ化してもらいたい話だ。

湯川シリーズが続くことを期待する。

■『完全犯罪に猫は何匹必要か?』11/06/23UP




東川篤哉 光文社

烏賊川市シリーズ第3弾 

三毛猫さがしに奔走する探偵鵜飼杜夫と助手の戸村流平。

彼らは豪徳寺豊蔵から彼の飼い猫ミケ子の捜索を頼まれたのだ。

烏賊川市シリーズも第3弾、Welcome troubleの看板どおり、相変わらずトラブルまみれの探偵たちだ。

今回は動機、アルバイトリックともにが鍵となっている (=^. .^=)

招き猫狂の依頼人豪徳寺豊蔵の事件が発端となり、次々と事件が起こるが、そこには猫がちらつき、砂川警部、志木刑事も翻弄される。

ユーモアミステリとして本屋ではシリーズが平積みされているので、入手するのはかなり容易になってきた。

3冊目ということで登場人物もより魅力的(?)になってきているし、地の文だけでなく会話も楽しませてくれる。

思わず(゜ー゜)ニヤリとさせられるセリフの数々を堪能してもらいたい。

招き猫に関する薀蓄と蓋然性の犯罪という記述あたりが個人的には興味を引いたところだ。

■『完盗オンサイト』12/05/17UP



玖村まゆみ 講談社

ロッククライマーが盆栽を盗む

高校を中退し、渡米、数々の山を完登してきた水沢浹。

倒れたところを寺の住職岩代に拾われる。

彼の紹介で工事現場で働くことになるが、休憩中ロッククライミングの真似事をしているのをある人物に見られる。

帯のコメントにつられて購入したのだが、それほどおもしろくなかったというのが正直なところだ。

まあ、江戸川乱歩賞受賞作ということで以前にも『プリズン・トリック』を読んでこれまた後悔したのだが、見事に二の舞となってしまった。

主人公が皇居の盆栽を盗むという話なのだが、そこまで人間模様というかドラマ部分が長い。

そこまでが魅力的な部分だと指摘されるとつらいが、ミステリーを期待していたせいか、少々がっかりした。

「帯をみて買わない」ということを学ばせてくれた一冊となった。
 



■『極点飛行』08/06/13UP


笹本稜平 光文社

南極に眠るナチスの金塊

〜あらすじ〜

南極付近で荷物の輸送などを扱っているWAA社のパイロット桐村彬。

彼はアイスマンことリカルド・シラセからの依頼で一時的に表向きはチリ政府管轄のアイスマンヒュッテのパイロットになり、越冬することになる。

アイスマンが厳しい南極で越冬する理由とは、彼の姪ナオミの婚約者ギュンターの研究、ドイツ人リッテンバウムの手記などにより明らかになった南極に眠る金鉱床を見つけるためだった。

しかし、アルゼンチンの退役軍人やネオナチスらも狙っていて、南極で金塊争奪戦が繰り広げられる。

『ホワイトアウト』を読み終えてから冒険小説というジャンルに手を出すようになったが、『海賊オッカムの至宝』『鋼鉄の騎士』など政治、経済、倫理の知識が必要で読むのに苦労し、苦手な分野になってしまった。

これもまたナチスを筆頭に戦後のアルゼンチン、チリ、ドイツの歴史、ナチスの残党の行方など陰謀説に格好の材料が揃っていて、ところどころ手が止まってしまう。

自分にとって未知の世界である南極、そしてパイロットの世界はとても新鮮で、歴史の部分と描写の部分で減速加速のくり返し。

陰謀論と南極条約、虚構と現実をうまく融合させてあるが、終盤の主人公たちの悪運ぶりというか無敵っぷりがいただけない。

後半の謎解き&アクション描写を心待ちにしてはいたものの、興味は薄れていくばかり。

前半のリッテンバウムの手記のところが一番おもしろかった。

『名探偵コナン‐紺碧の棺‐』や『日本沈没』で触れてあったメタンハイドレート、燃える氷が登場。

■『極北クレイマー』09/07/30UP



海堂尊 朝日新聞社出版

地域医療、産婦人科医療の惨劇

外科医8年目の今中は北の果て極北市民病院に勤務することになった。

しかし、赤字経営でしかも、極北市もまた財政難に苦しんでいた。

同著者の『ジーン・ワルツ』で大きく取り上げられた産婦人科医三枝の逮捕までを描いた話だ。

主人公は今中医師、周囲の人物に振り回されるという海堂作品のデフォルト設定だ。

田口公平医師、医学生天馬大吉、新人研修医世良雅志と主人公たちはどうしてこうも弱々しくみえるのだろう。

周囲をとりまくキャラクターが強力すぎるというのもあるか・・・。

本当に逮捕された産婦人科医の話を基にしてあり、地域医療、産婦人科の疲弊ぶりを紹介し、官僚主導の医療行政を痛烈に批判している。

このあたりはエンターテインメント色が薄れつつある海堂作品の最近の傾向か。

しかし、他の作品とのリンクという読者サービスは忘れていない。

伊坂幸太郎作品のリンクと違って、これらのリンクは作品全体でひとつの評価をあたえてもいいぐらい。

登場する人物は姫宮、そして世良、『螺鈿迷宮』のあの人だろうと思われる人物、清川、速水、そして世良だ。

白鳥、田口の登場はなし、姫宮の話のなかに彼らについて言及する場面がちょこっとあるぐらいだ。

地方の医師不足はとても深刻と聞いているので、これを読んで医師を目指す若者が増えることを願うが・・・。

■『霧越邸殺人事件』07/06/15UP



綾辻行人 新潮社

THE 本格推理小説

〜あらすじ〜

突然の吹雪に道を見失った劇団「暗色天幕」の8人は、霧越邸と呼ばれる洋館にたどりつく。

『白馬山荘殺人事件』のときも書いたが、コナンとか金田一を読んでいるみたいだった。

登場人物は、劇団『暗色天幕』の8人と、霧越邸に住む5人。

かなり分厚いため読むのに苦労した。

情景描写を想像するのが苦手だからだ。

とくに館の構造ともなると複雑すぎて想像できない。

後半は気力で読んだ。

その前に、朝5時からの家族行事種まきで疲れ果てていたというのもある。

ていうか5時からやらなくてもいいだろう。

吹雪でとじこめられた洋館で殺人事件。

これ以上のシチュエーションはないだろう。

好きな人は読め、それ以外の人は読まなくて結構というやつだ。

図書館から借りたのだが、アロエヨーグルトをこぼしてしまい、数10ページにシミがついてしまった。

誠に申し訳ない。

■『麒麟の翼』11/09/07UP



東野圭吾 講談社

加賀恭一郎シリーズ最高傑作

単行本の装丁も豪華だが、帯にも上のように謳ってある。

時系列的には『新参者』の後ということになる。

日本橋署管内で殺人事件が起きる。

従兄弟であり捜査一課の刑事である松宮と組むことになった加賀は、捜査本部の見解に疑問を持ち…。

日本橋の麒麟像の上である中年男性が死んでいたということでタイトルが『麒麟の翼』と単純にとらえていたが、何重もの意味が込められていた。

『赤い指』、『新参者』を読んだあとにこの本を読むのが一番よさそうだ。

『赤い指』で松宮との関係、加賀の父との関係、そして『新参者』で登場した店がこの『麒麟の翼』にも登場するからだ。

主人公の加賀以外の人物が再度登場するというのはこの著者にしては珍しいと自分には感じるのだが、どうだろうか。

感想としては、すばらしいの一言に尽きる、最後まで読ませるリーダビリティは相変わらずだし、父の三回忌のことでやりこめられる加賀をみるのもおもしろかった。

父から子に託すメッセージというもののすばらしさをこのあと感想を書く予定の『プリンセス・トヨトミ』でも書くつもりだが、改めて知った。

最高傑作の謳い文句に反論の余地なしの一作(⌒^⌒)b 
 



■『クラインの壺』07/06/15UP



岡嶋二人 新潮社

壺?

〜あらすじ〜

主人公上杉彰彦は作家志望だった。

応募した作品が規定枚数をこえていたため、選考をもれたが、イプシロン・プロジェクトという会社の目にとまり、作品の著作権を売ることに。

彼の書いた小説がゲームになるということだったが、なかなか完成にいたらなかったが、なんとかモニターを頼まれるまでになった。

ゲームの名は、『クライン2』。

そのゲームとは、プレイヤー自身が体感するゲームだった。

この前紹介した山田悠介さんの『Aコース』、『Fコース』に出てきたバーチャワールドの仕組み完全説明バージョンだ。

どうしてプレイヤー自身が体感できるのかを詳しく説明してある。

ゲームクリアにフォーカスがあたっているわけではなく、あくまでもそのゲームのモニターをするようになった主人公の周囲で不可解な事件がおこる。

あまり好きでないラストだったが、終盤にかけての二転三転は読み応えがあった。

クラインと聞くと、『機動戦士ガンダムSEED』のラクス・クライン嬢を思い出す。

SEEDのもう一人の主人公ともいうべきアスランの婚約者でありながら、あっさりキラとくっついたあの変わり身の早さはすごかった。

なんだかんだでSEEDと続作DESTINYのヒロインの座を手に入れたからね。

最新ガンダムシリーズが初ガンダムだったのだが、個人的には砂漠の虎バルトフェルド隊長とダコスタくんの活躍をもうちょっと見たかった。

話は大幅にそれたが、岡嶋二人の最後の著作だ。

■ 『グラスホッパー‐GRASSHOPPER‐』06/05/03UP



伊坂幸太郎 角川書店

〜あらすじ〜

かつては教師をしていた鈴木は、妻の復讐のため今の会社に勤めることに。


3人の主人公の視点からストーリーは進んでいく。

妻の復讐のため、裏の業界に足を踏み入れたばかりの鈴木

自殺屋が職業の大男

ハリー・ポッターでいうところの吸魂鬼みたいなやつ。

そして、20代前半のナイフを得意とする殺し屋

この3人に加え、鈴木の復讐のターゲットである寺原長男を殺したと思われる押し屋の存在が3人を引き合わせる。

読者が感情移入しやすいであろう鈴木、世の殺し屋を批判するためにいるような蝉、仕事に対する自信を失いつつある鯨という3人の主人公が現代人の移し身のように描かれ、おもしろくもあり、暗くもなる。

なにより、殺し屋、自殺屋の心理を活字にして読むと気味が悪いことこのうえない。

ブラックキャット、レオンといった殺し屋はダメだと思っているかたにオススメ。

■『クリムゾンの迷宮』07/05/09UP



貴志祐介 角川書店

リアルゲームブック

〜あらすじ〜

失業者藤木は目覚めた時、全く知らない場所にいた。

主人公藤木はゲーム機、そしていくらかの食糧をもっていた。

ゲーム機には指示があり、チェックポイントへ向かえとのことだった。

チェックポイントへ向かった藤木を待っていたのは他の人間たちで、彼らとともにサバイバルゲームをすることに。

超映画批評前田有一氏おすすめの本だ。

一時期放送された『サバイバー』という番組をご存知だろうか。

無人島で生き残った者に賞金をというやつだ。

この本はそれのリアリティ追求バージョンともいうべき作品だ。

あるシナリオに基づいた地形、各登場人物を1人の人物から描いた感情移入しやすいが不気味な雰囲気の世界。

冒険小説とホラーが混じったお得な小説だ。

たしかにゲーム世代に受けると思う。そして作中で表記されていたゲームブック。小学校のころ『にゃんたんのゲームブック』が流行った。

というかはまった。
 



■『ゲームの名は誘拐』05/12/31UP



東野圭吾

〜あらすじ〜

サイバープラン社に勤める佐久間駿介は、大手自動車会社である日星自動車の新車発表のプロモーションを任されていた。

しかし、その仕事を白紙に戻され、担当を外されてしまう。

それを決めたのは新しく副社長に就任した葛城勝俊だった。

彼のやり方に怒りを覚えた佐久間は彼の家に行き、問いただそうとする。

葛城家の家の前で待っていると、葛城家の塀を少女が越えて出てくる。

尾行したあと、彼女の事情を聞くと、葛城勝俊の娘だと判明する。

そして、彼女の協力のもと、佐久間は葛城への復讐のために狂言誘拐を画策する。

主人公佐久間は「人生とはゲーム」であるという考えのもと動く人間。

このフレーズは『野ブタ。をプロデュース』最終話で、修二が転校初日に心の中で言ったセリフと同じ。

このように基本的に「人生」という概念はいろいろなものにたとえられる。

ゲーム以外にも冒険の旅(オデッセイ)とか。

「人生とは冒険の旅である」は、PSソフト「ルナティック・ドーン・オデッセイ」の裏面に記されていた。

このゲームはすごい。

何がすごいかというと自由度の高さだ。

ジャンルはRPGなんですが、基本となるストーリーがない

ギルドへ行って仕事をもらい、達成すれば報酬が出るという王道的な展開を行くのも一つの道ならば、他の冒険者から武器を盗んで売りさばくことができたりもするというプレイヤーまかせにもほどがあるゲーム。

わたしのゲーム史のなかでもNo.2に輝く伝説のゲーム。

では、No.1は何かというと、ゲームボーイソフトの「選ばれしもの」だ。

これは、高校時代に親友から借りてプレイした。

ジャンルはドラクエに近いRPG。

特徴としては、いろんなものに対して下のようなコマンドが出てくる。

はなす
あける
たたく

使用例をみてみよう。

道具屋のおばさんに対して‘あける’を選択するとダメージをくらう。

まあ、セクハラだから。

また、穴に対して‘あける’を選択すると、


あいてるからあなっていうんだろ!

というツッコミが入る。

製作者の悪ふざけぶりが最高。

また、敵がとても強く、倒したばかりの中ボスがしばらくすると普通のモンスターとして登場する。

一戦一戦回復アイテムを全部投入し、全力で戦わなければならないほど難易度が高い。

結局ラストダンジョンで何度もゲームオーバーになりクリアできなかった。

自分がクリアできなかった唯一のRPGだ。

話は大きくそれたが、『ゲームの名は誘拐』はとてもおもしろい。

誘拐された少女も共犯であるということや、今までの誘拐事件に対する佐久間の見解がとても斬新だった。

タバコ1箱で1日30分を無駄にしていると言ってのける合理主義者佐久間の完璧な計画と時々顔を覗かせる少女や葛城勝俊の不可解な行動がある程度予想のつくラストへの伏線となっている。

サスペンスにおいてラストの種明かしはとても重要だが、この本の場合、途中でおぼろげながらラストが予想できる。

それを信じるかどうか迷いながら読み進めることもまたこの本の醍醐味である。




■『嫌韓流1,2』06/07/17UP



山野車輪 晋遊舎

マンガの範疇に入るが、一応ここで取り上げる。

韓国人を嫌うという題名から全く興味がなかったのだが、妹が『嫌韓流の真実』という本を強く薦めるので、購入した。

だいたい『嫌韓流』を読まずに『嫌韓流の真実』を買う妹の思考回路がさっぱりわからない。

とりあえず社会人初給料で買ってきた。

この本を購入するまで『嫌韓流(いやはんりゅう)』って呼んでいた。

『嫌韓流(けんかんりゅう)』。でも、けんかんりゅうでは漢字変換できない。

タイトルどおり、韓国を徹底的に攻撃したマンガだ。

内容は、「日韓共催ワールドカップの裏側」、「戦後補償問題」、「在日韓国・朝鮮人の来歴」、「反日マスコミの脅威」、「ハングルと日本人」、「外国人参政権の問題」、「日韓併合の真実」、「日本領侵略‐竹島問題」の9話から構成され、4本のコラムと『冬のソナタ』についてのあとがきもある。

『嫌韓流2』の内容は、「終わりなき反日」、「世界で嫌われる韓国人」、「在日特権の真実」、「日本海を汚す韓国」、「教科書採択問題と日教組」、「人権擁護法案と反日マスコミ」、「差別大国韓国」、「歴史を捏造する韓国」。

このマンガにおいての韓国の実態をうのみにするならば、韓国が嫌いになることは間違いない

本の内容が事実かどうかはともかくとして、竹島問題など日韓の歴史認識の甘さに気付かされた。

また、メディアリテラシーもこのマンガの根幹をなしている。

とにかく、立ち読みするにはちょっと難しく、1,000円での購入は高すぎる。

ちなみに韓国ドラマLOVEのおふくろはこの本が大嫌いだ。

■『幻夜』12/04/24UP



東野圭吾 集英社

『白夜行』の続編?

倒産寸前の工場を経営していた父親が自殺し、葬儀が一段落したとき、水原雅也が住む地域を大地震が襲った。

そんな彼の前に現れたのが新海美冬という謎の女性だった。

『白夜行』の続編とも言われている作品で、これまた分厚い本だ。

『白夜行』では主人公二人の心情描写を描かないことで二人の狂気ぶりを表現していたのだが、今回は違う。

主に雅也からの視点で彼らの狂気ぶりが描かれている。

阪神大震災後、東京に出てきた雅也と美冬は、結婚することなく暮らし始める。

雅也は職人が怪我し、代役として工場に勤め始め、美冬は宝石店華屋で働きはじめる。

美冬は自分の幸せのために雅也を利用し、様々な悪事を行っていく。

美の追求のためなのかなんなのか、他のホラー小説よりもこちらで描かれる人間の狂気というものがよほど恐ろしい。

ぜひご一読を。
 



■『ゴールデンスランバー‐a memory‐』06/06/12UP



伊坂幸太郎 新潮社

和製JFK暗殺劇

〜あらすじ〜

半年前、首相に就任した金田貞義。

地元仙台でのパレード中、ラジコン飛行機が爆発し、死んでしまう。

首相暗殺の濡れ衣を着せられた青柳雅春の逃亡劇である。

構成は、入院患者田中実からみた事件の概要、事件から20年後、事件時の青柳雅春、その元恋人樋口晴子、そして事件から3ヶ月後。

単行本の帯に「伊坂的娯楽小説突抜頂点」とあり、『陽気なギャングが地球を回す』とか『死神の精度』『オーデュボンの祈り』などをこえるのかと半ば衝動買いしたが…。

テンポのよい独特の会話、魅力的なキャラクターは健在だが、さわやかかつインパクトのあるラストはなかった。

JFK暗殺を基にしてあるせいかもしれない。

何度も読み返したい伊坂作品だがこれはちょっと…。

■『交渉人』07/05/22UP



五十嵐貴久 幻冬舎

交渉術基本講座

〜あらすじ〜

コンビニエンス強盗犯が小出病院に医師、看護師、患者を人質にたてこもった。ネゴシエーターの石田警視正が捜査の指揮をとることになった。

博多の紀伊国屋書店でおすすめの本として列挙されてあったので購入した。

同時にBYJファミリーブックを予約した。

ネゴシエーターの存在を知ったのは、『踊る大捜査線 the movie2 ‐レインボーブリッジを封鎖せよ!‐』のユースケ・サンタマリア演じる真下正義の役柄からだった。

犯人との会話のみで事件のイニシアチブを握るという綱渡り的展開がみられ、精神的にかなりきつい仕事だろうが、画的にはかなり魅力的だった。

そんな交渉人を小説で描いたらどんなふうになるのだろうか。

この本は病院にたてこもった犯人とベテラン交渉人の頭脳戦をかつて交渉術を学んでいた遠野警部の視点から描いた作品だ。

彼女とともに捜査の指揮にあたった所轄の刑事安藤が交渉術に関して素人のため捜査がてら説明をするというかたちのため、石田警視正の発言の意図、犯人のタイプなどとても優しいつくりになっている。

なによりも中盤からラストにかけての展開がすごかった。

帯にもあったように交渉がうまくいきかけていた矢先の突然の急展開、そして驚愕の真実。

キャッチコピーに偽りナシの内容だった。

■『交換殺人には向かない夜』11/10/29UP




東川篤哉 光文社

烏賊川市シリーズ第4弾

烏賊川市は年に一度あるかないかの大雪の日だった。

鵜飼杜夫探偵と二宮朱美は有名な画家がいた善通寺家へ浮気調査、戸村流平と十乗寺さくらはさくらの知人から頼まれた買い物へ。

彼らの裏では交換殺人が進行中だった。

とあらすじ紹介してみたものの、タイトルにトリックの肝である交換殺人を匂わせることで交換殺人をベースとしながらもこちらの上をいくトリックを披露する気満々の東川篤哉氏だ。

シリーズ最高傑作と名高い作品だが、それは正しい。

視点を切り替えつつの展開はテンポがよく、魅力的なキャラクターが見事に踊りまわっている。

前3作あってのこの出来といっていいだろう。

もはや文句のつけようがない。

今回はいつものレギュラーメンバーに加え、第2弾で登場した十乗寺さくらお嬢様が流平の相方を務めている。

彼らの恋愛模様の発展も見逃せないといいたいところだが、たいして発展しないので見逃していいだろう。




■『鋼鉄の騎士』06/01/19UP



藤田宜永 新潮文庫

疾走する青春

〜あらすじ〜

主人公千代延義正は、貴族の息子でロシア革命に憧れ、共産主義活動を行っていた。

しかし、兄の死をきっかけにその情熱を失い、両親と共にフランスへ渡り、父の友人ド・トゥルニエ男爵と親しくなる。

男爵に誘われ、トリポリのグラン・プリレースを観戦した義正はロシア革命と似た感覚を覚え、レーサーを目指すようになる。

第二次世界大戦前(1935〜1939年)のフランスを舞台に、ソ連、ドイツの陰謀をレーサーを目指す日本人の青年の話とからめて描いた冒険小説。

『ホワイトアウト』の巻末ですばらしい冒険小説だと絶賛されていたので、購入した。

最初はレーサーを目指す主人公ということで卒業検定2度不合格の自分とは縁遠い世界だと感じたが、読みすすめるにつれて、マニュアル車を運転したくなった。

高校時代に日本史Bの授業を受けたが、第二次対戦前の世界情勢など頭からとうに抜け落ちているため、冒頭の時代背景年譜はありがたかった。

そのあとには主要登場人物が記されている。

名前と職業からどんな人物か想像し読み始める人がほとんどだろう。

ただ、一つだけ気になる名前があった。

千代延義正・・・・・・・・・・・・・・千代延子爵家の次男。本作の主人公

    ・
    ・
    ・

アルド・ベルニーニ・・・・・・・・・イタリア人レーサー
クラウス・シュミット・・・・・・・・・ドイツ人レーサー
エリカ・グッドマン・・・・・・・・・・ユダヤ系女性科学者
弓王子・・・・・・・・・・・・・・・・・パリの大泥棒
ドンジョン・・・・・・・・・・・・・・・・弓王子の情婦
ジェルメーヌ・ブルグラン・・・・・帝国陸軍武官室秘書
イブー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ソ連のスパイ

弓王子って名前も職業も気になってしょうがない。


『ホワイトアウト』には、過去の自分に打ち克つというテーマがあった。

この小説も似ている。

主人公は何度も自分に問いかける。

なぜ、レースに魅了されたのか?」革命にも憧れ、レースにも似たものを感じるのだが、それが何であるのか明確にするべく車を走らせる。

答えを求めて、懸命に生きる姿は、『ホワイトアウト』の主人公富樫と重なる。

最後に、レースメインの小説のように感想を書いてきたが、実はレースシーンの描写より、政治、諜報戦がらみの描写のほうが多い。

そのためブルジョワとか右翼とかファシストとか聞いたことはあるけどよくわからない単語がたくさんだ。

そのため国語辞典片手に読むはめになった。

『鋼鉄の騎士』用語集

よくわからなかった単語を広辞苑第五版より引用し、まとめてみた。太字が本編登場の用語。

(1) 人物名

レーニン

ロシアのマルクス主義者でボリシェビキ党・ソ連邦の創設者。学生時代より革命運動に従事、流刑・亡命の生活を経て、1917年ロシア革命に成功、その後ソビエト政府首班として社会主義建設を指導。マルクス主義を独自の仕方で体系づけた人物。(1870〜1924)

※本編では名前だけの登場。


スターリン

 ソ連の政治家。グルジアのゴリ生れ。神学校に入学後、革命運動に入り、十月革命後は民族人民委員。1922年以来共産党書記長。レーニン没後、トロツキー・ブハーリンらを退け、1国社会主義の強行建設を推進。36年新憲法を制定、37年には大量粛清を行なって個人独裁を樹立。人民委員会議長(首相)として対独抗戦を指導した。(1879〜1953)


※37年の大量粛清は本編でも触れられています。

ヒトラー

ドイツの政治家。オーストリアの税関吏の子に生まれ、第一次大戦にはドイツ軍の伍長で出征。戦後ドイツ労働者党に入党、党名をナチ党と改めて1921年党首となる。23年ミュンヘン一揆を企てて入獄。世界恐慌の混乱の中で中間層の支持を得、財界とも手を握って32年ナチ党を第一党とし、翌年首相。共産党その他を弾圧して34年総統となり独裁権を掌握。以後、対外侵略を強行、39年第二次大戦をひき起し、降伏直前に自殺。(1889〜1945)

※本編でも少しだけ登場。


ムッソリーニ

イタリアの政治家。初め社会党員、第一次大戦参戦を唱え除名。1919年ファシスト党を組織、22年政権を掌握してファシスト独裁体制を樹立。36年エチオピアを併合、40年連合国に対して宣戦、43年連合軍のシチリア上陸後、失脚。北イタリアのドイツ軍占領地域で再帰をはかったが、パルチザンに銃殺された。(1883〜1945)

※数回ほど名前を見ました。


トロツキー

ロシアの革命家。ユダヤ人富農の子。1905年の革命では首都のソビエト議長。流刑中に脱走、ウィーンで「プラウダ」を発行。17年の二月革命後帰国、ボリシェビキに入党、ふたたび首都のソビエト議長。ソビエト政府成立後、外務・陸海軍人民委員を歴任。

世界革命論を唱えてスターリンの一国社会主義論に敗れ、27年党より除名、国外に追放、メキシコで暗殺される。(1879〜1940)

※初めて見た単語だったので人名なのか政治がらみの単語なのか区別がつかなかった。トロツキー分子という語で何度も登場。


ブルム

フランスの政治家・文明批評家。ドレフュス事件に無罪を主張して闘い、1919年より社会党から下院議員、36年人民戦線内閣首相、38・46年にも首相に就任。(1872〜1950)

※本編で主人公らの舞台となったフランスの首相。


(2) 政治学の講義とかで頻出してそうな語

アナーキー【anarchy】・・・無政府状態。政府の存在しないような、無秩序な状態。

アナーキスト【anarchist】・・・無政府主義者。無政府主義を奉ずる人。

アナーキズム【anarchism】・・・無政府主義。一切の権力や強制を否定して、個人の自由を拘束することの絶対にない社会を実現しようとする主義。

※1回だけ見かけた。


右翼

(フランス革命後、議会で議長席から見て右方の席を占めたことから) 保守派。また、国粋主義・ファシズムなどの立場のこと。


革命

従来の被支配階級が支配階級から国家権力を奪い、社会組織を急激に変革すること。

※主人公はかつてのロシア革命に心酔。


共産主義(communism) コミュニズム。共産主義者、コミュニスト。
 

私有財産制の否定と共有財産制の実現によって貧富の差をなくそうとする思想・運動。古くはプラトンなどにも見られるが、主としてマルクス・エンゲルスによって体系づけられたものを指す。
 
プロレタリア革命を通じて実現される、生産手段の社会的所有に立脚する社会体制。その第1段階は社会主義とも呼ばれ、生産力の発達程度があまり高くないため、社会の成員は能力に応じて労働し、労働に応じた分配を受ける。生産力が高度に発展し、各成員が能力に応じて労働し、必要に応じて分配をうける段階。これが狭義の共産主義。

※社会主義と共産主義は同じようなもんだと思っていた。


ゲシュタポ

反ナチス運動の取締りを目的としたナチス‐ドイツの秘密国家警察。

※人名だとばかり思っていた。


コミンテルン

第三インターナショナルの別称。共産主義インターナショナル。世界各国の共産党の国際組織。1919年、レーニンらの指導下にモスクワで創立、国際共産主義運動の指導に当ったが、43年、解散。


左翼

(フランス革命後、議会で議長席から見て左方の席を急進派ジャコバン党が占めたことから) 急進派・社会主義・共産主義などの立場。左党。左派。


シンパ

シンパサイザーの略。同情者。共鳴者。特に、共産主義運動に直接には参加しないが支持援助する人。

※シンパ集めという語で頻出。


ツァーリ

帝政時代のロシア君主の称号。ラテン語の皇帝の意になったカエサル(Caesar)から出た語。

※ツァーリ信仰会という組織と主人公は出会う。


ナチス

(ナチの複数形) ナチ党の通称。(Nationalsozialistische Deutsche Arbeiterpartei) 国民社会主義ドイツ労働者党。ヒトラーを党首としたドイツの政党。

第一次大戦後に台頭、1933年政権を掌握、独裁政治を断行、反個人主義・反共産主義・反ユダヤ主義を標榜して国内を再編成。対外的には、ヴェルサイユ体制の破棄を目ざして再軍備を強行、オーストリアを併合して第三帝国を実現したが、39年ポーランドを侵略、第二次大戦を誘発。ユダヤ人大虐殺を行うが、45年ドイツ敗戦とともに崩壊。

※この単語も頻出。


ファシスト・・・イタリアのファシスト党員。ファシズムを奉ずる人。

ファシスト党

イタリアの国粋党。第一次大戦後、1919年3月、ムッソリーニが組織した「イタリア戦闘ファッシ」が母胎。21年政党結成。22年政権を獲得して一国一党制を樹立、社会主義勢力に対抗して、民主主義を排し、組合主義に基づいて構築した独裁形態を強行。第二次大戦にイタリア敗退後、45年解体。

ファシズム

(ラテン語fasces(古代ローマの儀式用の棒束、転じて団結の意)に由来) 狭義には、イタリアのファシスト党の運動、並びに同党が権力を握っていた時期の政治的理念およびその体制。

広義には、上記と共通の本質をもつ傾向・運動・支配体制。第一次大戦後、多くの資本主義国に出現(イタリア・ドイツ・日本・スペイン・南米諸国・東欧諸国など)。

全体主義的あるいは権威主義的で、議会政治の否認、一党独裁、市民的・政治的自由の極度の抑圧、対外的には侵略政策をとることを特色とし、合理的な思想体系を持たず、もっぱら感情に訴えて国粋的思想を宣伝する。


ブルジョア

近代社会における資本家階級に属する人。あるいは生産手段を持つ人。


プロレタリアート

資本主義社会において、生産手段を持たず、自己の労働力を資本家に売って生活する賃金労働者の階級。無産階級。


ボリシェビキ

(多数派の意)1903年ロシア社会民主労働党内に生れたレーニンの一派。マルトフ派との組織路線上の対立から生れたが、12年別党となり、十月革命後、ロシア共産党(ボリシェヴィキ)と改称。
 
転じて革命的左翼、模範的な共産主義者の意。「過激派」などとも訳された。


マルクス主義

マルクス・エンゲルスによって確立された思想体系。哲学的基礎としての弁証法的唯物論、それを社会に適用して社会をその物質的土台から歴史的に把握する史的唯物論、階級社会の場での階級闘争の理論、資本主義社会の運動法則を解明する経済学説、国家を階級支配の道具と見る国家論、労働者階級の革命運動の戦略・戦術、植民地・従属国の被圧迫民族解放の理論、社会主義・共産主義建設の理論など。


メンシェヴィキ

(少数派の意) ロシア社会民主労働党の右派。プレハーノフ・マルトフ(L.Martov1873〜1923)らが指導。1903年ボリシェヴィキと決裂。社会主義への道は議会制民主主義の実現を経ると主張。二月革命後、臨時政府の指導勢力となったが、十月革命で打倒された。

■『五体不満足』05/06/27UP



乙武洋匡 講談社

インパクトのある本の表紙は1度見たら忘れられない。

生まれたときから手足がなかった作者の半自伝&心のバリアフリーを唱えるベストセラー。

久しぶりに読んでみたのだが、とてもおもしろかったし、その生き様にほれた。

本人いわく環境に恵まれていたとあったが、自分がもし同じ立場ならどうだろうかと想像してみた。

絶対引きこもってる。

環境の改善と障害者への慣れ、そして自分にしかできないことをみつけること。いろいろと学ぶことが多かった。

自分の特長を生かし、自分にしかできないことをみつける自信はないが、一生かかってでも取り組むべき課題だと思った。

こういう本を教科書で取り上げるべき。
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