咆哮と彷徨の記録

                              

■『ラッシュライフ‐a life‐』08/07/01UP



伊坂幸太郎 新潮社

あなたが好きな日本語は何ですか?

『オーデュボンの祈り』に続く伊坂幸太郎の2作目。

多くの登場人物の運命が仙台で交錯する。

画家の志奈子、窃盗犯黒澤(男)、宗教団体に入った河原崎(男)、心理カウンセラーの京子、求職中の豊田(男)、この5人が主人公。

5人の物語が独立しているようで、密接につながっている。

4人が白人女性から「好きな日本語」をスケッチブックに書いてくれと頼まれるのだが、その順番でそれぞれの時間の流れがはっきりする。

そのため序盤から伏線だらけ。

意味不明な会話や行動の端々に他の人物との接点が隠されている。

収束されていくストーリーはパズルのようでおもしろい。

伊坂幸太郎の作品同士のリンクはというと、『オーデュボンの祈り』の主人公伊藤がちらりと登場する。

■『ラットマン』11/12/31UP



道尾秀介 光文社

目に見えるものの意味

姫川亮、30歳、独身、高校時代に組んだエアロ・スミスのコピーバンドSundownerのギタリストだ。

父を病気で、姉を不可解な事故死でなくしている過去に影のある人物だ。

ボーカルの竹内、ベースの谷尾、ドラムの桂とライブに向けて練習中だったのだが、スタジオの器具庫で恋人であるひかりの死体を発見する。

読み出すととまらない道尾秀介さんの作品だが、この『ラットマン』も例外ではない。

冒頭から中盤にかけていたるところに含みのある文章が続いていく。

至るところにはってある伏線をものの見事に回収する業は相変わらず見事で、事件の真相と姉の事故死、父の言葉、そして母の行動を見事に収束させている。

バンドを組んだ経験がないため、音楽のことに関してはさっぱりだが、作中に丁寧な説明がされていて心配はいらなかった。

■『螺鈿迷宮』07/03/15UP



海堂尊 角川書店

ラッキーペガサス

〜あらすじ〜

留年医大生の天馬大吉は、麻雀の負けにより桜宮病院へボランティアとして潜入を依頼される。

『チーム・バチスタの栄光』『ナイチンゲールの沈黙』でも何度か名前が登場した桜宮病院が話の舞台だ。

田口&白鳥コンビのやりとりをみることができないのが残念だが、“火喰い鳥”白鳥の部下氷姫が登場する。

本作は医大生天馬大吉が語り手となっている。

両親を失った過去をもつ大吉が桜宮病院で死について深く学ぶ過程はとても感情移入ができるが、前2作に比べると断然重い。

前作以上に日本の医療制度を批判していて、次回作をにおわせるラストだった。

もちろん前2作必読だ。

満を持しての登場だった氷姫、自分の想像していた人物とはかなりかけ離れていた。

いい意味でも悪い意味でも期待を裏切られた。

次回作が楽しみだ。




■『ラビリンス〜labyrinth〜』06/12/04UP



ケイト・モス Kate Mosse

訳:森嶋マリ ソフトバンク クリエイティブ

輪廻転生

〜あらすじ〜


2005年のフランス、発掘作業に携わっていたアリスは洞穴を発見し、内側に迷路が彫られた石の指輪を発見する。

迷路の指輪、3つの書、そして聖杯をめぐる歴史小説。

聖杯といえば、もはや最後の晩餐時の杯、キリストの磔刑時に血を受けた杯というのが覆されているが、この話においての聖杯もまた別物。

2005年のアリス、指輪を発見したことによって、謎の集団に執拗に追われる。

一方、13世紀のフランスではアレースが3つの書のことについて父ペルティエから聞かされる。

二人の女性の関係とは、聖杯の正体は、3つの書を守護するものたちとは、これらの謎が二つの時代を収束しながらラストへと向かっていく。

二冊に分けるほどもないという情報量。

情景描写が多く、なかなか話が進まない。

話の核心自体にもさほど興味をかきたてられるというわけでもないため、読み終えるのにとても苦労した。

さらに、ラストの場面が『海賊オッカムの財宝』と同じように想像力がとても必要だったため、寝る前の活動停止寸前の脳には許容範囲をはるかにこえていた。

この本における聖杯の正体に興味のある方がいれば下巻の最後のほうを立ち読みするべし。
 



■『リアル鬼ごっこ』08/05/26UP



山田悠介 幻冬舎

捕まったら殺される鬼ごっこ

〜あらすじ〜

西暦3000年、人口1億人の王国。

500万人の佐藤姓が暮らしていて、王の名字もまた佐藤だった。

同じ名字が多いことを不快に思った王は、佐藤姓を減らすべく、鬼ごっこを計画する。

これまで紹介してきた『Aコース』、『親指さがし』で有名な山田悠介のデビュー作。

映画化もされている。

興味本位で映画公式ホームページを覗いてみたら美少女、谷村美月がコメントしていた。

サイトも"仮面ライダー"を意識してあるようだ。

それはともかく、佐藤さんと国が選抜した鬼による鬼ごっこが王国を舞台に行われるわけだが、読みすすめていても西暦3000年という雰囲気は全く感じられない。

鬼ごっこ中は全国民が乗りものに乗ってはダメということで、走っている描写ばかりで退屈。

計7時間で500万人を100万人の鬼で捕まえられるのか疑問。

と、期待して購入したわりには完全に期待はずれ。

妹はスピード感があったと感想を漏らしていたが、それはただ単に読み終えるのが早かっただけだろう。

『バトルロワイヤル』と似た主人公独白系とはいえ、主人公の心理描写が拙いせいか全く感情移入できなかった。

映画の予告編をみるかぎり、映画のほうがおもしろそうな気がする。

巻末の解説は横里隆さん。

この人による山田悠介レビューが一番おもしろかった。

■『流星の絆』11/06/08UP



東野圭吾 講談社

なぜかハヤシライスが食べたくなる

功一、泰輔、静奈の兄弟妹はペルセウス座流星群を観にこっそり家を抜け出したのだが、かえって見ると両親が殺されていた。

東野圭吾の最高傑作と銘打たれているが、そうかなぁ?というのが正直な感想だ。

ミステリーと人間ドラマ4:6ぐらい。

兄弟は詐欺師として生計をたてていた。

長男功一が情報収集と計画の立案担当。

次男泰輔がさまざまな役になりすまし、相手を騙す。

そして静奈がその美貌をいかし、ターゲットとなる男をひっかける。

偽物の宝石を高く買わせるという案件のなか、静奈はターゲット役の戸神行成が今度出す店のハヤシライスを食べる。

兄弟の両親はアリアケという洋食店を経営していて、ハヤシライスが名物だった。

その味とまったく同じだったのだ。

兄弟は行成の父が両親を殺した犯人ではないと疑い始め、捜査する。

ハヤシライスの話がよく出てくるので、読んでいるとおいしいハヤシライスが食べたくなる(ーΩー )

それに反していつもの最後まで読ませるリーダビリティが今ひとつないのが不満なところ。。。o(゜^ ゜)

最後の展開はあまり納得のいく内容ではなかったが、ただハヤシライスは食べたい

■『臨場』12/11/01UP



横山秀夫 光文社

終身検視官の鑑識

L県警の終身検視官のあだ名をもつ倉石義男は、鑑識を長年務め、その眼力の鋭さを確かさは、伝説となっていた。

そんな彼の事件が8つ収められているのがこの『臨場』である。

倉石本人視点は全くなく、彼の部下や新聞記者、上司から見た彼の行動で倉石の人物像がわかる。

「赤い名刺」は、倉石の部下一ノ瀬からの視点。

若い女性の自殺現場に臨場した二人。

女性が元愛人だった一ノ瀬は倉石にばれないよう工作しようとするが…。

「眼前の密室」は、新聞記者相崎靖之が“夜廻り”しているときに起きた殺人事件。

倉石の登場はないものの、別に名探偵がいるというこの短編集の中ではやや異色作。

「鉢植えの女」は、再び一ノ瀬の視点。

個人的には倉石の鑑識に対しての想いが感じられる一編で、一番のおすすめだ。

「餞」は、L県警退職を控えた小松崎周一の視点。

彼に毎年届く年賀状と暑中見舞いの謎を倉石が解くというお話。

そのほか「声」、「真夜中の調書」、「黒星」、「十七年蝉」など多数収録されている。
 



■『ルパンの消息』09/09/03UP



横山秀夫 光文社

15年前、喜多、竜見、橘が通っていた高校の女性教師が自殺した。

しかし、他殺の疑いありとのタレこみがあって捜査が開始された。

時効まで24時間、15年前の事件が明らかになっていく。

映画化された『クライマーズ・ハイ』の原作者。

加筆と修正を加えた処女作ということで、例のごとく帯買いした。

帯には、「女性教師の墜落死、テスト奪取計画、三億円事件。時効まで24時間。いったい幾つの秘密が潜んでいるのか。著者渾身“幻の傑作”待望の文庫化」とあって思わず買ってしまった。

興味をひいたのは、三億円事件だ。

特集が組まれたりしているとても有名な事件。

そしてタイトルのルパンの消息だ。

あの怪盗アルセーヌ・ルパンがどう絡むのか興味があった。

まあ、全くといっていいほど関係なしだったが。

主として2人の登場人物の視点から物語は展開していく。

15年前高校生3年生、現在は妻子ある会社員喜多芳夫。

15年前の事件のほぼ全てを語る人物だ。

2人目がこの時効寸前の事件の指揮をとる溝呂木義人。

15年前の時効間際だった3億円事件の捜査にもかかわっていた人物だ。

彼が目をつけていた人物、内海一矢が「サンオクさん」としてマスターをやっていたルパンという店が喜多たちの溜まり場だった。

喜多が語る回想シーン、溝呂木の推理、捜査が交互にあり、事件が終幕へと近づいていく。

登場人物が多いが、個性的な人物ばかりなので脳内描写がとても簡単。

そのためとても読みやすい。

三億円事件がただの付録になるぐらい、本筋の事件(※女性教師の自殺事件)も魅力的だ。

推理小説としてかなりおもしろい部類に入ると思うのでぜひ手に入れて読んでほしい。
 



■『レイクサイド』10/04/22UP



東野圭吾 文藝春秋

勉強合宿の裏側で

並木俊介は教育熱心な親による合同勉強合宿に参加した。

初日の夜、近くのホテルに宿を取った愛人の高階英里子のところへ向かった。

しかし、彼女は現れず、合宿中の別荘に帰る。

そこで彼が目にするのは愛人の死体だった。

妻美菜子が殺したいうことだが…。

映画化もされているミステリー。

主人公の並木俊介は私立中学の受験のためのこの合宿に消極的な人物で、実の息子でない章太の教育については妻の美菜子に任せっぱなし。

そんな彼の愛人が殺され、警察へ通報しようとするも合宿に参加している他の親たちから事件を隠蔽しようと説得される。

私立受験、そして勉強合宿を企画するような親たちがなんで事件隠蔽なんて思われるだろうが、そうなってもおかしくない序盤の人物描写と設定になっている。

ただし、事件の隠蔽にもところどころにヒントをちりばめ、ラストの謎解きであっと言わせるあたりはさすがというしかない。

事件隠蔽の前半と謎解きの後半という明確な構成で非常に読みやすい。

一気に読める量なのでおすすめの一冊だ。

■『レインボー・シックス〜Rainbow Six〜』05/12/05UP



トム・クランシー Tom Clancy

訳:村上博基

ネタバレなし。

〜あらすじ〜

元CIA工作官ジョン・クラークを指揮官に対テロ多国籍部隊レインボーが組織される。

この本の著者トム・クランシーは有名なベストセラー作家だそうで、『レッド・オクトーバーを追え!』『いま、そこにある危機』など多数の原作が映画化されているそうだ。

そんなこととは露知らず、大学の図書館の外国人作家の棚にあって『レインボー・シックス』とのタイトルに惹かれ、借りて読んだ。

レインボーはセブンだろと小声でツッコんだことも事実だ。

でも、虹の色って国によって違うからツッコミもまた間違いだ。

虹の話はさておき、英、米、独、仏、イスラエルなど多国籍のメンバーから組織されているためレインボーと名づけられる。

さらにシックスは6で、指揮官を意味する暗号だとかどうとかあとがきに記されていた。

とにもかくにもジョン・クラークのことを指す。

トム・クランシーの本は多数あるようで、順番に読んでいったほうがよさそうだが、そんなことあとがきに書かれても困る。

レインボーが組織されるころ、元KGB将校ポポフは、多額の金でテロリストの仲介を頼まれていた。

『ゲットバッカーズ』でいうヘブンみたいな役割。

彼はもう一人の主人公と言っていいぐらい描写が多い。

彼もまた自分の雇い主についてあれこれ思案する。

また、それらと並行して、とある実験施設では、あるウィルスの人体実験が行われていた。

レインボー、テロリスト、製薬会社の3陣営で構成されていて、登場人物が多い。

想像力を鍛えるにはもってこいの内容だ。

また、エリートのなかのエリートで組織された対テロ部隊ということで、ハリウッド映画の特殊部隊の描写に対する批判がある。

イデオロギーという単語が頻繁に出てくるので、センター試験国語の評論文を思い出した。

文庫本で4冊だが、1冊目でレインボー部隊の背景を十分に描いたせいか後半の追い込み、ドラマの盛り上がり方はすばらしい。
 




■『ロスト・シンボル〜The LOST SYMBOL〜』10/10/21UP



ダン・ブラウン Dan Brown

訳:越前敏弥  角川書店

フリーメイソンの秘宝

ラングドン教授のもとに親友でありフリーメイソンの最高位階のピーター・ソロモンから講演の依頼がくる。

首都ワシントンへ向かったラングドンだったが、講演会場は空で、ピーターの切り落とされた手が見つかる。

『天使と悪魔』ではヴァチカンを舞台に秘密結社イルミナティ、『ダ・ヴィンチ・コード』ではパリとロンドンを中心にシオン修道会、そして今回はワシントンD.C.を舞台にフリーメイソンの謎を中心に話が進んでいく。

主人公は象徴学者のロバート・ラングドン教授だ。

フリーメイソンの伝わるとされる古の神秘へ通じる門を探すようにピーターを拉致した人物から脅迫される。

アメリカの建国の歴史から考えるとワシントンにはたいした遺跡や謎がないと思っていたのだが、この本を読んでその認識が間違っていることがわかった。

そのあたりの蘊蓄はさすがで相変わらずの情報量である。

歴史の謎と最新科学の双方向から攻めるあたりが筆者のパターンなのか、純粋知性科学という聞きなれない学問の話まで出てくる。

これがまだすごく興味をそそられるが、ついていくのがやっとで難しすぎた。

事件解決後のラストの謎解きが前作までと違ってダラダラと長い気がするが、誤解を受けやすいといっているフリーメイソンのフォローが大変だったということだろう。

相変わらずの徹夜本なので当然必読の1冊である。
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