咆哮と彷徨の記録

                             

■『赤い指』06/12/23UP



東野圭吾 講談社

この著者にしては、さほど重厚さを感じさせない人間ドラマ

〜あらすじ〜

前原昭夫は、妻八重子、中学3年生の息子直巳、母政恵と暮らすごく普通のサラリーマン。

八重子から緊急の連絡を受け、帰宅してみると少女の死体が庭に放置されていた。

東野圭吾の新作ミステリーということで、発売後すぐ購入した。ミステリーというよりも人間ドラマが8割。

少女を殺してしまった直巳をかばおうとする八重子に苦労する昭夫の心理状態などは、丁寧に描かれていて、現実に起こりうるような感じがする。

また、少女遺体遺棄事件の捜査を担当するもう一人の語り手松宮脩平は、新人刑事という設定で、ベテラン刑事の後について事件を追っていく。

彼の視点は我々読者目線に近いため、捜査の進展がとても遅く感じられるが、ベテラン刑事の意味深な発言や行動が最後まで緊張感を持続させる作りとなっている。

事件のトリックどうこうよりも、裏側に潜む真実に驚かされるという内容。

コーヒーブレイクのお供にぴったりの本。

■『アヒルと鴨のコインロッカー』08/02/28UP



伊坂幸太郎 東京創元社

ボブ・ディランを閉じ込めろ!

〜あらすじ〜

仙台で大学生活をはじめた椎名は、隣人河崎から本屋を一緒に襲おうと持ちかけられる。

裏表紙のこのあらすじを読み、購入した。

もちろんお気に入りの伊坂幸太郎の本であることも理由の一つだ。

話の語り手は2人。

ピカピカの大学生椎名とペットショップに勤める琴美。

ちなみに琴美がいる時間軸は2年前。

現在放送中の『仮面ライダーキバ』が現在と22年前から物語を展開しているが、こちらは現在と2年前からだ。

映画化されて、いつのまにかDVDまで発売されている。

アヒルと鴨のコインロッカー 映画公式サイト

『陽気なギャングが地球を回す』の映画化はまだ分かるとしてもこちらのほうは映画化したら叙述トリックが使えないだろう。

肝心の感想はというと、やはりおもしろい。

この作家の作品は日常では絶対繰り広げられないような会話がぽんぽん出てくるからおもしろい。

とくに例え話がおもしろい。

登場人物の断定的な口調に注目してもらいたい。

ボブ・ディラン好きも相変わらずだし、他作品とのリンクもある。

舞台は同じ仙台なのになぜ現在に琴美はでてこないのか、続きが読みたくなるというよりも読まされてしまう感覚に似ている。

最後に、とりあえずだまされて読んでください。

■『アルジャーノンに花束を−FLOWERS FOR ALGERNON−』08/04/12UP



ダニエル・キイス Daniel Keyes 

訳:小尾芙佐

早川書房

〜あらすじ〜

精神遅滞児として生まれてきたチャーリー・ゴードン、33歳。

伯父の親友が経営するパン屋で雑用係として働いていた。

彼は学習に対するモチベーションが高かったため、ビークマン大学心理学部長ニーハー教授、同大学の精神科医兼脳外科医のストラウス博士が行う人体実験の被験者に選ばれ手術を受ける。

ユースケ・サンタマリアと菅野美穂でドラマをやってましたね。

ニュージーランドのオークランドで語学学校に通っていたとき、World Guideを読み飽きたので、エージェントのオフィスで借りた。

英語ばかりに囲まれてて日本語に飢えていた。

随分前にドラマは終わっているので、説明すると、チャーリーは頭がよくなります。

IQ200近くまでいったようです。

この本はそのチャーリーの日記です。

手術を受けるにさいし、その変化を自分で感じることができるように、日記を書くことを勧められるのだ。

彼が変わるにつれ、周囲の人々がどう変わったのか、彼の捉え方の変化が一目瞭然で、非常に興味深い。

筆者の想像力のたくましさ、研究熱心さには感服する。

タイトルにあるアルジャーノンとはチャーリーと同じ手術を受けたネズミで、その結果迷路をめちゃくちゃ早くクリアする天才ネズミ。

アルジャーノンが先に手術を受けているため、彼の未来=チャーリーの未来なのである。

物語中盤からの悲しすぎる流れに、救いを求め、一晩で読んだ。

ちなみに1週間借りることができたのだが。

これは泣ける。

本だけど泣ける。

古本屋にあったらぜひ手にとってもらいたい。

もしくは図書館とかで借りてもらいたい。

■『あやつられた龍馬‐The Someone Behind Ryoma‐』06/08/21UP



加治将一 祥伝社

操られた日本

坂本龍馬といえば、尊敬される歴史上の人物の一人。

大河ドラマ『新撰組』では江口洋介が演じていた。

土佐弁と豪快な性格が印象に残っている。

薩長同盟、亀山社中、海援隊など日本史においても重要人物の一人。

その坂本龍馬が暗殺されたことは周知の事実であり、犯人については様々な憶測が飛び交っている。

この本はその暗殺犯をラストに発表。

その暗殺犯の正体が意外であるため、その結論に至った過程を幕末の日本、英国諜報部、フリーメーソンとの関わりから証明を試みてある。

秘密結社フリーメーソン、ジェームズ・ボンドに代表される英国諜報部、幕末の日本と知られざる日本の暗部を知ってしまったようで、幻滅した。

もう少し華やかな時代かと思っていたが、やはり光あるところに闇があるということだろうか。

陰謀めいた本は信用してはならないというのが鉄則だが、歴史の教科書もまた変わりつつあるので、著者の仮説を信じたい気もする。

どちらにしても、この本はとてもわかりやすく、説得力もあるので、龍馬暗殺犯の新説を知りたい方は図書館で借りて損はないと思う。
 




■『イン・ザ・プール』   『空中ブランコ』08/06/17UP



奥田英朗 文藝春秋

名医?迷医?

神経科医師伊良部一郎の診察してもらった患者の物語。

それぞれ4つから5つの短編から構成され、1番目のエピソードタイトルが本のタイトルとなっている。

「イン・ザ・プール」、「勃ちっぱなし」、「コンパニオン」、「フレンズ」、「いつまでたっても」

「空中ブランコ」、「ハリネズミ」、「義父のヅラ」、「ホットコーナー」、「女流作家」

さまざまな悩みを抱える各エピソードの主人公達は、伊良部総合病院地下1階、神経科の医師である伊良部一郎の診察室を訪れる。

注射フェチのため、すぐに唯一の看護師マユミに注射の指示をする。

彼女は露出狂で、ズボン着用の看護師が主流のなかスリット入りのミニスカート。

胸元も大きく開けていて、ベンチに座りくわえ煙草で雑誌を読んでいる。

この二人に翻弄されながらも患者達はなんだかんだで悩みが解決されていくという話。

僕の脳内設定では『王様のレストラン』に出演していたときの田口浩正がモデル。

看護師マユミは安良城紅ちゃん。

ドラマ化もされている。

公式サイトはコチラ

このシリーズはおもしろい。

『チーム・バチスタの栄光』から医療系の小説に注目していたが、これもまた異質。

白鳥技官とキャラクターがかぶってはいるが、伊良部医師は一線を越えている。

いつもならネタバレして伊良部医師がどんな対応をしているのか羅列するところだが、こればかりは読んでもらいたい。

一番好きなエピソードは『空中ブランコ』に収録されている「義父のヅラ」だ。

古本屋でもし見つけたら立ち読みしてもらいたい。
 


 





■『Aコース』、『Fコース』07/05/25UP



山田悠介 幻冬舎

40分で読める

ゲームセンターに新しく入ったアトラクション、「バーチャワールド」を題材にした小説だ。

いくつかコースがあり、Aコース、Fコースを基にしているため表題のようになっている。

『Aコース』にチャレンジするのは高校3年生の男子5人。

火事になった病院から脱出するというものだ。

『Fコース』にチャレンジするのは高校生の女子3人と中学生の女子1人。

美術館に忍び込みバッジスの『手をつなぐ二人』という絵を盗み出すこと。

どちらも40分ほどで読み終えることができる。

非現実の世界に迷い込んだ高校生の心情というものがストレートに伝わってくるというかステレオタイプ的な現代の高校生を描いている。

立ち読みでも十分読み終えることが可能なので下のリンクは不要な気もする。

10代に人気なのもわかる。

授業時間でも十分読み終えることが可能だ。

■『ABC殺人事件〜THE A.B.C. MURDERS〜』06/05/21UP



アガサ・クリスティ Agatha Christie

訳:中村能三 新潮社

〜あらすじ〜

ヘイスティングズ大尉は、故国イギリスに戻ったさいポワロのもとをたずねる。

ポワロのもとには、ABCと名乗るものからの挑戦の手紙があり、ポワロは心配していた。

ABCからの予告の手紙、死体の側に置かれた鉄道案内が連続殺人事件を示唆する。

犯罪者の人物像から犯人を割り出すという、物的証拠よりも心理的証拠を重視するポワロ、当然、ストーリーは被害者の親類との話、もしくは尋問によって進んでいく。

『オリエント急行殺人事件』と違い、ヘイスティングズ大尉からの視点(&第三者)で事件やポワロの人物像が描写されている。

そのため、シャーロックホームズシリーズのワトスン医師と同じようにポワロへの皮肉、信頼などドラマ性に溢れている。

トリックのほうは、コナンでもインスパイヤされているように、難解。

ポワロの人物像を知りたいというかたにおすすめ。
 


■『オーデュボンの祈り‐a prayer‐』08/04/13UP



伊坂幸太郎 新潮社

殺案山子事件

〜あらすじ〜

コンビニ強盗で同級生の城山に捕まった伊藤。

連行されるなか逃げ出し、気がつけば萩島で寝ていた。

大人気作家、そして東野圭吾と並ぶMy favorite作家であるの伊坂幸太郎のデビュー作。

伊坂ワールドの始まりはしゃべるカカシ、150年前から外界との行き来を遮断した萩島から。

そこにはある言い伝えが、

「この島にはあるものが欠けている それは外から来た人物が丘で渡す」

伊藤は言い伝えの人物なのだろうか、彼と不思議な島人との交流を描いたミステリー。

島の中という狭い舞台ながらも超個性的な登場人物とリョコウバト、ジョン・ジェームズ・オーデュボン、支倉常長といった歴史上の人物の蘊蓄をうまく絡ませ最後まであきさせないつくりとなっている。

個性的な面々を紹介する。

犬顔の塗装屋、熊顔の船頭、地球の心臓の音を聴いている少女、体重300kg超でその場から動けない女、反対のことしか言わない元画家、人殺しが許されいる男、そして、未来を予測でき、しゃべることもできるカカシ。

こんな風に書くとファンタジー小説が好きな人しか手をつけなさそうだけど、決してファンタジーではないと思う。

なにより伊坂幸太郎氏の作品は現実の中に軽く非現実を盛り込んでさもこれぐらい許容範囲だろと思わせてくれるからおもしろいのである。

『アヒルと鴨のコインロッカー』、『死神の精度』を映画化するぐらいならこの作品を映画化してほしい。

伊藤は加瀬亮さん。

『それでも僕はやってない』のキャラそのままでやれる。

カカシの優午の声は池田秀一さんでお願いします。

おなじみの伊坂作品のリンクだが、後々感想を書く予定の『ラッシュライフ』で伊藤としゃべるカカシの話が、『ゴールデンスランバー』でリョコウバトの話が出てくる。

■『親指さがし』07/05/07UP



山田悠介 幻冬舎

短い小説に秘められた真性の恐怖

〜あらすじ〜

20歳の大学生沢武の親友田所由美が謎の失踪をとげてから7年がたっていた。

彼は由美が消えたマンション屋上に向かう。

2006年度に勤務した中学校で面接官の役をやった。

3年生の副担任で進路指導の一環としてやったのだが、そのときの予想質問のなかで、好きな本は?という質問を数多くした。

結構多くの生徒が山田悠介さんの本を答えたので、映画化もされたこの本を読んでみた。

ティーンエイジャーに圧倒的な人気ということだが、20代半ばの自分にはどうだろうか。

率直な感想からいうと怖かった

親指さがしというコックリさんに似たオカルトチックなゲームを題材にしているのだが、これがまた正体不明で怖かった。

『白夜行』も怖かったが、こちらは真性のホラー小説といえるだろう。

簡単に親指さがしの概要を説明する。

1. 円になって右側にいる人の左手の親指を自分の右手で隠す。

2. バラバラに殺される女性を想像する。

3. 館にいつのまにか移動している。そこで左手の親指を探す。

4. 肩を叩かれても振り向いてはいけない。部屋の中のロウソクを吹き消せば戻れる。

黄泉の国(wikipedia)の話に似ている。

1時間ぐらいで読み終えることができるので、読み応えがあるとはいえないが、真夏の夜のお供にピッタリの一冊だ。

■『オリエント急行殺人事件〜MURDER ON THE ORIENT EXPRESS〜』06/05/20UP



アガサ・クリスティ Agatha Christie

訳:蕗沢忠枝 新潮社

〜あらすじ〜

オリエント急行内で殺人事件が発生、殺された男は、アメリカで有名な犯罪者だった。そして、雪のため立ち往生することになった車内で、ポワロの捜査開始。

ポワロシリーズの中でもABC殺人事件とならんで屈指の名作。

情景描写が全くなく、事件のあらまし、乗客の証言、そして、ポワロの推理から構成されている。

見所はなんといっても犯人のトリック。

今まで紹介した中では、『容疑者Xの献身』と並ぶ難解なトリックだった。

それでは登場人物を簡単に紹介する。

エルキュール・ポワロ/私立探偵/灰色の脳細胞をもっているらしい。

ブック/国際寝台車会社の重役/ポワロに客室を用意したり、事件の捜査に乗り気。

コンスタンチン博士/ギリシア人の医師/検死から犯人像をアドバイスする。

この3人が乗客の話を聞いて犯人をつかまえようとする。

犯行が可能だったと思われる乗客は14人。

決して派手な内容ではありませんが、推理小説、ミステリー好きにはかなり挑戦的なトリックとなっているので、興味のある人は、図書館で借りたり、中古で買ってみて損はない。



■『オルファクトグラム‐Olfactgram‐』07/06/15UP



井上夢人 毎日新聞社

超嗅覚

〜あらすじ〜

完成したCDを持って姉のもと訪ねた片桐稔。

しかし、姉は全裸でベッドにくくりつけられていた。

助けようとするも背後に隠れていた人物に殴打され意識を失ってしまう。

1ヶ月後意識を取り戻すも周囲の世界が違ってみえた。

超嗅覚に目覚めた主人公が姉を殺した犯人を追うという話だ。

これはおもしろかった。

ニオイの世界を視覚でとらえることができるという主人公の嗅覚をもとに、まるで手品のように人の持ち物やさっき食べた物をあてるさまなどとても興味ぶかかった。

物語の大半が嗅覚、嗅覚を手に入れた主人公の感想、そして嗅覚を視覚に変換しての描写につきるのだが、殺人事件の犯人がどうでもよくなるぐらいおもしろかった。

とはいえ、嗅覚をたよりに犯人を追いつめていくラストはかなり盛り上がったので、前半の嗅覚の解明も無駄な描写だったというわけではない。

ただ、犬が感じる世界というものを活字で読むというのも不思議なものだった。

かなり長い部類に入る小説だが、読む価値が十分にある一冊だ。

感想とは全く関係ないが、この著者と同姓同名の子と中学2年生のとき同じクラスだった。そして、生徒会役員の選挙に彼が立候補したとき責任者だった。
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