咆哮と彷徨の記録

                             

■『バーティミアス-サマルカンドの秘宝-
〜BARTIMAEUS The Amulet of Samarkand〜』05/06/12UP



ジョナサン・ストラウド Jonathan Stroud

訳:金原瑞人・松山美保  理論社

妖霊バーティミアスは中級のジンで、ある日、ナサニエルという若い魔術師に召喚され、サマルカンドのアミュレットを盗んでくるよう命令される。

妹から薦められ、全く期待せずに読み始めた。

基本的に妹のアドバイスがよいほうにすすんだためしがないからだ。

まぁ暇つぶしにはなるかと。

この当時は『ハリー・ポッター』を代表とする魔法ファンタジー小説のことをバカにしていた。

その理由は映画の『ハリー・ポッター』シリーズに幻滅したからだ。

いざ読み始めると、とにかくおもしろかった。

妹のセンスを見直した。

何がおもしろかったのか、特徴と合わせて書いていく。

物語の舞台はロンドンで魔術師が権力を握っている。

なぜなら主人公ナサニエルも見習いの魔術師だ。

しかし、『ハリー・ポッター』にあった杖をふって「ルーモス、光よ!」で杖の先が光るという魔法とは異なっている

タイトルにもなっているもうひとりの主人公バーティミアスは妖霊だ。

彼らが魔法を使っていて、妖霊を召喚できるのが魔術師というわけだ。

特殊なコンタクトをはめた魔術師のみが妖霊を視認することができる。

魔術師はいろんな言語で書かれた魔術書を読めるだけであってたいしたことはない。

ドラえもんがすごいわけじゃなく、未来の道具がすごいのと一緒

真の主人公は妖霊バーティミアス、通常は異世界に住むジンだ。

ジンとは妖霊のランクみたいなもの。

おしゃべりが好きで年齢は約5000歳。

自分の安全を第一に考える超自己中心的な性格で、自分の実力や世界の流れなど知り尽くしていてプライドもそれなりにある。

そんなバーティミアスが人間世界に召喚され、事件に関わっていく。

バーティミアスの視点と魔術師ナサニエルの視点があるが、バーティミアスの視点からの話はとてもおもしろい。

本音と建前がわかりやすく、キャラクターとしての深さを感じる。

解説につかわれがちな脚注も、バーティミアスの本音と過去の実績の話(5000年も生きているので多い)が記されていて、読むのも苦にならない。

実はこっちのほうがおもしろい。

読み終わったときの満足感は十分だ。

『ハリー・ポッター』シリーズの感想ものせているが、ハリーよりもバーティミアスのほうが感情移入しやすいし、考え方に共感できる部分が多いため、『バーティミアス』>『ハリー・ポッター』であることは間違いない。

■『バーティミアス-ゴーレムの眼-〜BARTIMAEUS The Golem's Eye〜』05/06/12UP


ジョナサン・ストラウド Jonathan Stroud

訳:金原瑞人・松山美保  理論社

“サマルカンドのアミュレット事件”から3年、若きエリート魔術師となったナサニエルは国家保安庁の副長官に就任し、レジスタンスの対応に追われていた。

しかし、頼れる妖霊もいないままだった。

一方、レジスタンスのメンバー、キティーは、最後の作戦に向けて準備を進めていた。

再びバーティミアスが登場。

生意気なセリフにも磨きがかかっている。

今回はバーティミアス、ナサニエルの視点に加え、前作に少しだけ登場したキティーが加わり話も広がってお得だ

ナサニエルの成長、挫折、そしてキティーの苦難、そんな二人が交じり合っての展開は見物。

打算的なバーティミアスがアフリート(※妖霊のランクみたいなものでジンより実力は上)のホノリウス相手に勇敢に立ち向かうところはバーティミアスの新たな一面をみることができておもしろかった。

■『バーティミアス−プトレマイオスの門−〜BARTIMAEUS Ptolemy's Gate〜』06/01/14UP



ジョナサン・ストラウド Jonathan Stroud

訳:金原瑞人・松山美保  理論社

トリロジー完結

〜あらすじ〜
前作「ゴーレムの眼」から3年後、ナサニエルは情報大臣として毎日忙しく働いていました。バーティミアスもまた、異世界に帰ることなくこき使われ、成分はボロボロでした。

ついに完結したバーティミアス・トリロジー。自分はハリー・ポッターを超えるおもしろさというキャッチコピーに賛成票を投じています。パラレルワールドの大英帝国を舞台に魔術師が魔法を使えない一般人を差別しているといった現代にも通じる社会風刺と、相容れない存在だった人間と妖霊の信頼関係など、1,2の全ての謎解明も含め、最後を飾るにふさわしい作品でした。

「サマルカンドの秘宝」、「ゴーレムの眼」でバーティミアスがプトレマイオスに姿を変える本当の理由や、ラブレース、デュバールを操っていた真の黒幕登場など目が離せません。

ハリー・ポッターシリーズは好きだけど、ちょっと自分には幼稚すぎるという方におすすめです。

このシリーズに見られるバーティミアスら妖霊と歴史の関わり(もちろんフィクション)など近々まとめたいと思っています。例えば、魔法のランプに閉じ込められているのも妖霊であり、アフリートに分類されるとか、ピサの斜塔の建設のさい、ある妖霊が手を抜いたために傾いたとか。

■『バイバイ、ブラックバード』12/05/17UP



伊坂幸太郎 双葉社

謎のバスに連れて行かれる5股男

星野一彦は、とある事情からあるバスで遠くへ連れて行かれることが決まっていた。

彼は交際していた女性たちに別れを告げるため、彼女たちに会いにいく。

太字の強調からわかるようにモテモテ男の哀れな末路を描いてあるといえば、多少溜飲は下がるだろうか。

彼に同行するのは組織の一人繭美だ。

彼女は星野の別れを台無しにするというか、おもしろがっているというか、とにかくスケールの大きい女性だ。

6話から構成されていて、女性とのなれそめ、事情説明、そしてちょっとした事件、出来事という流れになっている。

5人の女性と同時に付き合っていたモテ期の星野一彦がどうなっていくんだろうと、彼の視点にたったり、たたなかったりでハラハラしながら読める。

非モテの男性がざまぁみろと読むか、こんな男性にひっかかったらだめだよねと女性が悟るか…。

余談だが、ブラックバードといえば、遊戯王5D'sのクロウ・ホーガンのD・ホイールだ。

■『白銀ジャック』11/03/19UP



東野圭吾 実業之日本社

スキー場ジャック

新月高原スキー場の索道部マネージャーである倉田玲司は、スキー場の実質的な責任者だった。

積雪も十分、スキーシーズンのピークを迎える頃、スキー場あてに一通の電子メールが、そこには積雪の前からスキー場のしたに爆弾をしかけていて、要求に応じなければ爆破するというものだった。

誘拐事件の一種といえるだろう、要求を受け入れなければ、爆破し、スキーヤー、スノーボーダーに怪我を負わせるという。

警察への届出を強く勧める倉田に対し、社長ら幹部たちは身代金を払うことを決定する。

スキー場を舞台とした事件ということで斬新な内容だ。

スキーの経験がないので今ひとつ想像できないが、スキーヤーらの細かい描写から筆者のスキーへの思い入れが感じられる。

『麒麟の翼』購入時についていた作者の公式ガイドのコメントを見ると、かなりスノーボードにはまっているようだ。

レ( ̄ー ̄)ナットク!!( ̄^ ̄/)

登場人物も多いが、スキー客の数人らの描写、彼らから見たスキー場スタッフと、多角的に物語が進んでいくが疾走感、テンポの良さはすばらしい。

スキー場テロとも言っていい内容なので興味を持った人はぜひ読んでもらいたい本だ。

■『白馬山荘殺人事件』07/05/29UP



東野圭吾 光文社

雪山の宿で殺人事件

〜あらすじ〜

大学生原菜穂子は、親友沢村真琴と長野の宿『まざあ・ぐうす』へ向かった。

昨年兄の公一がその宿で服毒自殺をはかったからだ。

兄が自殺するはずがない、真相を知るべく宿泊者に聞き込みを開始する。

探偵は女子大生の2人。

引っ込み思案だが芯の強い菜穂子、竹を割ったような性格で男に間違えられやすい真琴。

カップルのようにみえる2人が兄の死の真相を、そして新たにおこった事件の謎に迫る。

舞台は冬の信州。

『まざあ・ぐうす』に泊まる客はほぼ毎年くる常連客ばかり。

当然事件当時の関係者も多く残っていて、兄のことだけでなく各部屋の名前『マザー・グース』の唄の謎との関連で事件が混沌としてくる。

昨年特殊学級のクラスの英語の授業で歌っていた『ロンドン・ブリッジ』がマザー・グースの唄と知ってびっくりした。

雪山が舞台ということで、コナンとか金田一とかサスペンスの定番といえる場所での事件をはじめて本で読んだ。

あまり雪に縁がないので、膝元までの雪など想像もつかない。

愛知県にいたにもかかわらずスキーもやったことがないという体たらく。ニュージーランドでは絶対チャレンジしたい。

雪山の山荘を舞台にした傑作推理小説、必読だ。


■『パズル・パレス〜DIGITAL FORTRESS〜』06/06/22UP



ダン・ブラウン Dan Brown

訳:越前敏弥・熊谷千寿 角川書店

NSA(国家安全保障局)の空騒ぎ

〜あらすじ〜

かつてNSAに在籍していたエンセイ・タンカド、彼の作った暗号ソフトウェア「デジタル・フォートレス」を世界最高の暗号解読コンピュータで解読を試みるが…。

皆さんはNSAという組織をご存知だろうか?

自分は海外ドラマ『24』でその存在を知った。

FBI、CIAなどとごっちゃになりそうですが、とりあえず国防に関する組織のようだ。

そのNSAが物語のメインステージ。

ここには、どんな暗号も最長3時間以内で解読するコンピュータ・トランスレータがある。

そして、暗号解読員スーザンは急遽召集をかけられ、18時間もトランスレータが解読中の暗号の真実に迫っていく。

暗号学の簡単な説明、インターネット、Eメールに関する莫大な蘊蓄が詰め込まれている。

インターネットが普及しはじめたあたりにアメリカで出版された本で、情報漏洩への警鐘も鳴らされている。

それでいて物語のテンポのよさは、さすが『ダ・ヴィンチ・コード』の著者だというほかない。

NSAという組織、暗号についての蘊蓄を読みたい方におすすめ。

余談だが自分の携帯のメールアドレスも暗号だ。




バトル・ロワイアル〜BATTLE ROYALE〜』06/12/16UP



高見広春 太田出版

恐怖のサバイバルゲーム

〜あらすじ〜

城岩中学3年B組の生徒たちは、修学旅行に行くはずだったが、通称“プログラム”に選ばれ、無人島で最後の一人になるまで殺しあいをすることに。

「今から殺し合いをしてもらいます。」のセリフはあまりにも有名で、映画のほうは15歳未満の鑑賞禁止となっている。

中学生が主人公なのに…。

映画ではなぜ中学生同士で殺し合いをさせるのかが今ひとつわからなかったが、本を読めばよくわかる。

残酷描写が目立ってしまった映画だが、本のほうはまた違う魅力がある。

某独裁国家に似た大東亜共和国を舞台に、極限状況に追いつめられた中学生に国家批判をさせるあたりがとてつもなくおもしろい。

賢い中学生ばかりなのが気になるが、入院中に差し入れされ、徹夜で読破したという本作、オススメだ。

■『パラドックス13-PARADOX13-』09/09/10UP



東野圭吾 毎日新聞社

地球の近くにブラックホールに似たものが生じたため、P-13現象がおきることになった。

各国首脳陣はこのことをトップシークレットとし、国民には伝えず、その現象がおきる時刻に注意を促した。

巡査久我冬樹は兄であり管理官である誠哉の捜査に乱入した。

逃走する犯人の車にしがみついた冬樹だったが、そのときP-13現象がおこった。

あらすじがこれだけではさっぱりだろう。

このあと、冬樹、そして誠哉は人がいなくなった世界で目覚める。

多くの人が消えたものの何人かの生存者がいて彼らと生きる道を模索していくのだが、大雨と地震が続き、都市機能は完全に崩壊していた。

突然周りにいた人たちが消えたらどう思うだろうか、そんな登場人物たちが普段の生活ではありえない場面に遭遇しながら、道徳観、価値観、生命についておおいに悩むというお話。

著者が目指す人間ドラマとミステリーの融合体の本道といったところか、極限状態での人間の心理が淡々と描かれている。

東野作品にしては珍しく2度読みたいという作品ではないが、やはり徹夜本、一度読み出すと止まらない出来だ。

地震のときに体育館に避難しなければならない理由もあるのであわせてどうぞ。

■『ハリー・ポッターと賢者の石〜HARRY POTTER AND THE PHILOSOPHER’S STONE〜』05/10/24UP



J・K・ローリング J.K.Rowling

訳:松岡佑子  静山社

〜あらすじ〜

魔法について全く知らずに育ったハリー・ポッターのもとにホグワーツ魔法学校から入学通知が届きます。


壮大なファンタジーの第1巻のため、魔法世界の丁寧な描写が大半を占めています。

主要な登場人物たちとの出会いはどれも変わったものばかりです。

この第1巻は一応賢者の石がメインなんですが、ストーリーが少しずつ区切られている印象を受けます。

謎を残しつつ完結しているといっていいかもしれません。

■『ハリー・ポッターと秘密の部屋〜HARRY POTTER AND THE CHAMBER OF SECRETS〜』05/10/24UP



〜あらすじ〜

ホグワーツ魔法学校での1年目が終わり、ハリーは伯父さんの元に戻ります。

そこに屋敷しもべ妖精ドビーがホグワーツに戻ってはならないと警告しにきます。個性豊かな登場人物と短くテンポの良い文章はすばらしいの一言に尽きます。


今回の話はかつてホグワーツ魔法学校を創設した4人のうちの1人サラザール・スリザリン(※寮の名前になってます。)がホグワーツに残した秘密の部屋をめぐる冒険です。

リドルの日記。50年前にかかれたトム・マルヴォーロ・リドルの日記で、秘密の部屋を開けた張本人です。のちのヴォルデモートなわけですが、のアナグラムだったのは驚きました。


■『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人〜HARRY POTTER AND THE PRISONER OF AZKABAN〜』05/10/24UP



〜あらすじ〜

2年目を終えたハリーの下宿先にバーノン伯父さんの妹マージがやってきます。そして、アズカバン刑務所から凶悪犯シリウス・ブラックが脱獄し・・・。


このアズカバンの囚人が今発売中のハリー・ポッターシリーズの中で一番のお気に入りです。

それは、伏線の張り方がとても巧妙ですし、クィディッチの全試合があるからです。ハリーの両親の死に関する部分も明らかになっていきます。

新しい登場人物が一癖も二癖もあるキャラクターたちで目が離せません。とくに「闇の魔術に対する防衛術」の新任教師リーマス・ルーピンなんかはとても人気がでるんじゃないでしょうか。

シリウス・ブラックはこのシリーズの中で一番好きなキャラクターです。自分のハンドルネームも彼から拝借しました。

好きな理由は、炎のゴブレット、不死鳥の騎士団のネタバレになるので控えます。先にも書いたとおりクィディッチの試合がすべてあるんですが、実況はこの人リー・ジョーダンです。フレッド&ジョージの悪友で、このときばかりは彼の独壇場です。

ここを映画で再現してほしかったのですが、ストーリー上それほど必要なかったのかカットされていました。

ハリーの新しい魔法エクスペクト・パトローナムですが、父ジェームズがアニメーガスで変身した牡鹿ということでとてもにくい演出だと思います。父子の絆を感じさせるいい場面でした。


■『ハリー・ポッターと炎のゴブレット〜HARRY POTTER AND THE GOBLET OF FIRE〜』05/10/24UP



〜あらすじ〜

夏休みを利用し、ハリーはウィーズリー家の人たちとクィディッチワールドカップを見に行きます。そこで、かつてヴォルデモートに仕えていたといわれる死喰い人と闇の印が上がるのをみることになります。


第4作は上下二巻組みの第ボリュームです。百年ほど開催が見送られていた三大魔法学校対抗試合が開催されます。

これは各学校の代表1名が己の技量のみで3つの課題を戦い抜くものです。17歳以上の生徒だけがエントリーでき、炎のゴブレットによって選ばれます。

14歳のハリーがなぜか選ばれるわけですが、彼は果敢に挑みます。

読み応え十分でした。

前半いたるところに張り巡らされた伏線とその回収もさることながら、続編を期待させる布石をしっかり見せてくれたと思います。

成長したハリー、ロン、ハーマイオニーのやりとりも徐々に大人びてきた印象を受けたし、新しい登場人物たちも限りなく怪しいのですが、疑いだすとキリがありません。

この第4作でハリー・ポッターワールドのおおまかな謎は解明されたといってもいいでしょう。

1,2,3作のヴォルデモートの暗躍の詳細もあきらかになりますし、ハリーの傷の謎も明らかになります。


■『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団〜HARRY POTTER AND THE ORDER OF THE PHOENIX〜』05/10/24UP



〜あらすじ〜

ヴォルデモートの復活を信じない魔法省のせいで、夏休み中ハリーとダンブルドアは新聞で中傷され続けました。

魔法省の息がかかったドローレス・アンブリッジが「闇の魔術に対する防衛術」の新任教授に着任します。

ヴォルデモートに対抗するためダンブルドアは不死鳥の騎士団を再結成し、本部をシリウスの実家に置きます。


今回は話が急展開、目まぐるしく動き出します。まず、ハリーがキレまくりです。我慢の限界を越える出来事でクタクタなのはわかりますが、読んでて気持ちいいものではありません。

そんなハリーにとって試練の第6巻でした。ウィーズリーの双子が登場しなかったら、暗い気持ちのまま読み終えることになったと思います。

スネイプ、マルフォイを軽くこえる嫌味な登場人物アンブリッジには殺意すら抱きました。

今回明かされたハリーの傷の秘密と、ダンブルドアの計画には驚きました。ヴォルデモートがポッター夫妻を殺した理由、赤ん坊のハリーまで殺そうとした理由です。まぁ、闇の帝王を名乗るにしてはマヌケなんですけどね。

死喰い人との対決はハラハラドキドキでした。そしてシリウスの死・・・。あまりにも悲しすぎます。彼の死後シリウスが渡した鏡のくだりにいたっては、シリウスがハリーの身をどれほど案じていたかよくわかります。



■『ハリー・ポッターと謎のプリンス〜HARRY POTTER AND THE HALF-BLOOD PRINCE〜』06/07/26UP



アバダ・ケダブラ

〜あらすじ〜

シリウスを失い悲しみにくれるハリー、そんな彼にダンブルドアは個人教授をすることにします。


ヴォルデモートと死喰い人が暴れまわり、ホグワーツ魔法学校も安全とはいえなくなった本編、ついにダンブルドアの個人教授が始まります。

選ばれ者ハリーがヴォルデモートを倒せると信じるダンブルドアは、ヴォルデモートの過去を見せます。

見所は、魔法薬学の教科書に記してあった、半純血のプリンス、グリフィンドールのクディッチチームのキャプテンとなったハリー、闇に対する防衛術の先生となったスネイプ、不審な動きをみせるマルフォイ、新任のスラグホーン、魔法省新大臣、そして、ヴォルデモートの不死の秘密です。

一番気になるのはやはりタイトルの謎のプリンスです。

新任スラグホーン教授に貸してもらったプリンスの教科書のおかげでハーマイオニー以上の評価を得るハリー、すっかりプリンスのとりことなりますが、自分でプリンスを名乗る人物を信用してよいのかはなはだ疑問です。


『不死鳥の騎士団』以上に激しい魔法戦もあり、シリーズ最高の盛り上がりを見せます。

最終巻に向けてこれ以上にない終わり方でした。最終巻『ハリー・ポッターと闇の帝王』(予想)が楽しみです。


■『Harry Potter and the Deathly Hallows』08/07/22UP



J.K.Rowling BLOOMSBURY

映画化が待ち遠しいハリーvsヴォルデモート

ついに最終章。

ダンブルドアがスネイプに殺され、魔法界にヴォルデモートが君臨した。ホグワーツの校長にスネイプが就任。

ハリーは賞金首となった。

ダンブルドアに託されたホークラックスを探すため、ロン、ハーマイオニーと旅に出る。

ホークラックスの1つであるリドルの日記は既に破壊済みのため、残り6個。

そこに絡んでくるのが、the Deathly Hallowsだ。

日本語では死の秘宝だ。

3つあるので、ハリー・ポッター世界の三種の神器といったところだ。

the Elder Wand、The Resurrection Stone、The Cloak of Invisiblity。

1つ目の杖のいきさつ、2つ目の石のありか、そして3つ目の透明マントに関わる謎がシリーズ最終章の中核をなしている。

どれかひとつを選べと言われれば、やっぱり透明マントを選ぶ。

Hなことし放題だ。

通気性に疑問があるが。

ともかく、三種の神器とホークラックス、ダンブルドアの死の真相など、すべての伏線は回収された、シリーズ最高傑作。

個人的にはヘドウィグに活躍が欲しかったところだが、贅沢はいうまい。

話はかわるが、この本を買ったのはニュージーランドのオークランド滞在中だ。

同じエージェントの掲示板で当時32ドルぐらいしたやつを15ドルで売っていた。

すぐに連絡し、購入、次の週からニュージーランド各地をラウンドしながら本を読みすすめた。

1回目は流し読み、2回目は、重要そうな単語を辞書をひきながら、そして3回目はなるべく辞書をひきながら熟読した。

荷物になるので、帰国時に売って帰ろうかと思ったが、旅の友でもあったので、おみやげとして持って帰ってきたという愛読書だ。




■『反社会学講座』06/01/25UP



パオロ・マッツァリーノ Paolo Mazzarino 

イースト・プレス 


妹に薦められ、大学の附属図書館で借りて読みました。社会学と聞いてもピンとこないので、広辞苑で調べてみました。

人間の社会的共同生活の構造や機能について研究する学問。とのことです。

抽象的すぎてよくわかりませんが、この本を読めば大体わかると著者は豪語しています。

私が定義すると、社会学とは、人間社会におけるさまざまな事象をいろんなデータや統計を駆使して、悲観的な結論を出し、憂い、嘆く学問のようです。

この本を読んだ限りはそうとしか・・・。なぜかというと、著者が世に溢れる社会学を社会学的見地から斬っているからです


どんなものを扱っているか短くまとめて紹介します。本編ではもう少し細分割されています。


(1) 社会学のダメなところ。

(2) 少年犯罪増加の真実。

(3) パラサイトシングルが日本を救う。

(4) 日本人は本当に勤勉なのか?

(5) フリーターは日本を救っている。

(6) ふれあいという言葉のもつ魔力。

(7) 欧米の大学の実情と若者の実態。

(8) 読書の真実。

(9) 少子化は悪か?


大きく分けると以上の9点について20回の講義という形で論じています。基本的に社会学者による情報操作に惑わされていることをいろんなデータを用いて茶化して語った記録のようです。

というわけで、社会学者に偏見を抱いてしまう本です。


一番興味をひいたのは、人間の不平等さに対する厳しい見解です。生まれ持った能力差を考えず、風邪をよくひく人に「体調管理がなっとらん!」と叱るのはおかしいとのことでした。

また、下ネタもあるとまえがきにありましたが、実際のところそんなになかったです。まえがきに書くくらいなんでかなり期待していたんですが・・・。

■『反社会学の不埒な研究報告』06/05/28UP



パオロ・マッツァリーノ Paolo Mazzarino 

二見書房

『反社会学講座』の続編みたいなものです。統計データのカラクリ、実体、その真実を駆使し、世の中にはびこる超悲観論主義の学者を斬るという本です。

前作はあくまでも社会学の範囲内で斬ってましたが、今回は歴史、経済、国語学まで手をひろげています。

その内容は、以下のようになっています。

○統計奇譚 前編 意識調査の闇   後編 消える住宅の怪

○くよくよのラーメン

○経済学は無慈悲なお約束の女王

○尊敬されたい!

○シェフの気まぐれ社会調査

○賞マスト・ゴー・オン   ツッパルことは勲章か

○末は博士か叙勲者か

○こどもが嫌いなおとなのための鎮魂歌

○新作落語『長屋武士道』

○コント『あなたにもビジネス書が書ける』

二作目ということで、エンターテイメント的要素も取り入れ、毒舌にも磨きがかかっています。

愚妹が購入してきたもので、読めと強くすすめるものだから、読みましたが、超悲観論者(スーパーペシミスト)をスーペーさんと略すところや、自分でボケて自分でツッコむところなど読んでいて不快になるところも多々あり、説得力に欠けます。

中途半端なボケを繰り出すまでもなくなかなかおもしろいので、やめてほしいところです。

ただ、最後のコント『あなたにもビジネス書が書ける』は小説風になっていて、とてもおもしろかったです。

ビジネス書、自己啓発系の本に対しての皮肉が随所にみられます。

本人の語り口調より、小説風にしたほうが毒が利いていておもしろくなると思うので、次回はそちらの方向でやってもらいたいです。
 



■『ひかりの剣』09/11/11UP



海堂尊 文藝春秋

速さは全てを凌駕する、速水×清川のコラボレーション

1988年、医学部剣道部の大会医鷲旗の覇権をめぐって、東城大学と帝華大学それぞれにドラマがあった。

東城大剣道部の主人公はもちろん『ジェネラル・ルージュの凱旋』の速水晃一。

同じキャラとは思えないほど堅い人物描写となっている。

帝華大剣道部の主人公は『ジーン・ワルツ』で活躍した清川吾郎。

こちらのキャラ描写には違和感なしだ。

彼らの大学3年、4年時の話である。

夏の大会が一番盛り上がるところだ。

脇を固めるキャラクターは、これまたおなじみの高階病院長だ。

速水、清川どちらとも関わるキーマンとなっている。

もちろん、話の中では病院長でなく、講師の役職で、剣道部顧問という立場だ。

『ブラックペアン1988』の裏サイドの物語のようでもあるが、それほど絡むわけでもない。

著者は後日紹介する『ジェネラル・ルージュの伝説』のなかで対をなすと記しているが。

肝心のストーリーは、剣道70%、医療30%といったところか、それぞれの剣道部の成長を速水、清川の視点から描かれている。

医療問題をズバッと切ってきた作品とは異なり、医療崩壊前の医学部剣道部の学生の青春物語といったところ。

シリーズでいうと、田口、島津、世良、渡海が少しだけ登場する。

剣道に関してド素人の自分にも十分楽しめた。

ラストの速水VS清川など読み応え充分なのでぜひご一読を。



■『ヒストリアン〜The Historian〜』



エリザベス・コストヴァ Elizabeth Kostova

訳:高瀬素子 NHK出版 

ヴラド・ツェペシュという歴史上の人物

〜あらすじ〜

主人公のエレナが父の書斎でまん中に竜の挿絵が入った本を発見する。

父ポールはしぶしぶその本にまつわる話を語り始める。

タイトルのヒストリアンは歴史学者。

ということで、15世紀のオスマン帝国の歴史についての話が7割を占める。

それだけに、1500年前後のオスマン帝国の歴史を全く知らない自分にはかなりきつかった。

この本を読むまでオスマン帝国そのものを知らなかったぐらいだから。

肝心の内容はというと、串刺し公と呼ばれたヴラド・ツェペシュと竜の挿絵の本が関わっているという話。

ポールの大学の指導教官バルトロメオ・ロッシの若かりし頃、ポールの若かりし頃、そして現在から構成されています。

オスマン帝国についての歴史講釈、ヨーロッパ諸国の情景描写、ヴラド・ツェペシュの歴史を絡め、ロッシ教授の失踪、父ポールの失踪の謎へと迫っていく。

歴史についての講義が退屈なのが難点だが、ドラキュラ伯爵のモデルとなっているヴラド・ツェペシュという人物の性格、生い立ちなどを深く知ることができる。

予備知識として、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』を一読しておいたほうがいいと思う。

歴史に興味がある、歴史上の人物であるドラキュラに興味がある、トルコ、ブルガリアに興味があるという飽きっぽくない方におすすめ。

■『向日葵の咲かない夏』09/11/03UP



道尾秀介 新潮社

夏休み前の悪夢

夏休みも明け、新型インフルエンザが猛威をふるっているが、この作品はそんな新型インフルエンザとは全く関係ない話。

これまたよくいく本屋ですすめられていたため、衝動的に買ったミステリーだ。

7月20日、小学4年生のミチオが主人公だ。

その日は1学期の終業式の日だった。

ミチオは担任の岩村先生から欠席しているSくんへの配布物をもっていくよう頼まれる。

彼の家につくも、返事がなく、部屋を覗いてみると、Sくんが首を吊っていた。

学校に戻りそのことを報告するミチオ、しかし、警察がSくんの家を調べたがSくんは発見されなかった。

母からうそつき呼ばわりされるミチオ、そんな彼の前にクモにうまれかわったSくんがあらわれる。

どのジャンルに属するかというとホラーサスペンス、主人公が小学4年生でサスペンスってどういうことだと思ったが、読んで納得。

大変薄気味悪いサスペンスだ。

読後の気分は大変悪くなるが、もう一度読み直したくなる中毒にかかる。

どういうことか説明すると小説のよさが完全にスポイルされるので伏せるが、必ずしも話し手の視点が正しいわけではないということ。

一風かわったホラーサスペンスだがラストにすすむにつれての展開はすばらしい。

小学生の夏休みがこれほど盛り上がることも珍しい。

ぜひ読んで薄気味悪さを体験してもらいたい。

■『秘密』06/11/15UP



東野圭吾 文藝春秋

トップシークレット

〜あらすじ〜

従兄の告別式に長野へ行った妻の直子と6年生の娘藻奈美、彼女らの乗ったスキーバスが崖から転落します。

二人が運ばれた病院へ駆けつける平介でしたが、二人の容体はおもわしくなく、直子は死んでしまいます。

重体ながらも、藻奈美は一命をとりとめます。しかし、彼女の体にはある異変が起きていて・・・平介との誰にも言えない生活が始まります。


『誰にでも秘密がある』という映画もあるとおり、人にはそれぞれ他人には言えない自分だけの秘密があります。

この本はごくごく普通の家庭に起こった他人には言えない出来事を描いた作品です。

普通の核家族に何が起こったのか、彼らはこのピンチをどう切り抜けるのか、どんなラストが待っているのか、なぜスキーバスは転落したのか。気になる方はぜひともご一読ください。

■『白夜行』06/02/07UP



東野圭吾 集英社

怖すぎて眠れず、大失態

〜あらすじ〜

質屋店主桐原洋介が何者かに殺害されます。彼の死から全てが始まります。


2006年1月からTBSでドラマ化されています。『トキオ』、『ゲームの名は誘拐』を読んですっかり東野圭吾ファンになったわけですが、ドラマ化されるということで購入しました。

序盤はそれほどでもなかったんですが、物語が進むにつれハマってしまいました。以前にも書いたんですが、これ読んで大失態を演じてしまいました。まさかこれほど怖い小説だったとは思いませんでした。

何が怖いかというと、事件の真相が不明瞭なところです。自分で勝手に想像しながら読み進むわけでそれが背筋が凍るほど怖い。とにかく怖い。これは初読なので、未読のかたは最初に読むときを楽しみにしておいてください。

おもしろさは折り紙付きなんで詳しい感想は他のサイト、ブログ管理者様に任せるとしてこのサイトでは登場人物の紹介をします。なお、完全にネタバレしているので、既読者の方のみ見てください。

こちらです。
 



■『フィッシュストーリー‐a story‐』12/10/08UP



伊坂幸太郎 新潮社

ほら話を英語でフィッシュストーリーというらしい。

この『フィッシュストーリー』は4つの短編で構成されている。

「動物園のエンジン」、「サクリファイス」、「フィッシュストーリー」、「ポテチ」だ。

「サクリファイス」、「ポテチ」には伊坂作品『ラッシュライフ』でおなじみの泥棒黒澤が登場する。

おすすめは表題になっている「フィッシュストーリー」だ

あるロックバンドの曲が世界を救うという話だ。

完璧にオチを言ってしまったが、そこにいたるまでの話の展開がおもしろい。

とくに曲ができるまでのミュージシャンたちの苦悩と覚悟だ。

次におもしろいのは「ポテチ」だろう。

『重力ピエロ』の縮小版といったところだ。

主人公の今村と泥棒大西のやりとりがとても愉快だ。

彼らの掛け合いこそ伊坂作品の真骨頂だ。

■『プラチナデータ』11/09/07UP



東野圭吾 幻冬舎

DNA国民管理の思わぬ穴

警察庁特殊解析研究所という施設に勤める神楽龍平は毛根などからDNAを解析する仕事をしていた。

彼らのおかげで殺人事件など刑事事件の捜査はDNA解析から犯人を割り出すというシンプルな手法に移行しつつあったΣ(゚ロ゚;)

そんなとき連続強姦殺人事件がおきる。

現場から犯人のDNAが採取されるが、データの中からは検出されずNF13と呼ばれるようになる。

ある日、データベースシステムの生みの親の兄である蓼科耕作に呼ばれた神楽は彼の部屋を訪れる。

そこでシステムの欠陥について知らされるも話の続きは神楽の診療の後ということになる。

診療の後、耕作を訪ねた神楽の目の前に広がっていたのは蓼科兄妹の死体だった。

DNAが管理され、そこから犯罪者を見つけるというシステムが構築されつつあるという近未来が舞台で、映画『マイノリティ・リポート』のような感じだ。

さすがに未来殺人の罪で〜というのはないが。

主人公は二人、解析員の神楽と刑事の浅間だ。

性格が全く違う二人だが、しだいに理解しあっていく。

映画化を見据えての作品だったのらしいのだが、正直映像化はむずかしいだろうなと思う。

事件までが間延びしているのは周辺設定の説明に時間がかかるからなのでしょうがなさそうだ。


■『ブラックペアン1988』08/04/20UP



海堂尊 宝島社

前3作より20年前の話

〜あらすじ〜

1988年、世良雅志は佐伯外科は入局したばかりの研修医。

そこには帝華大学から招聘された高階講師の姿が。

医者1年生世良から見た『チーム・バチスタの栄光』、『ナイチンゲールの沈黙』、『ジェネラル・ルージュの凱旋』の登場人物たちの20年前の姿とは?

帝華大の阿修羅と呼ばれていた高階、『ナイチンゲールの沈黙』で藤原看護師が語った佐伯清剛教授、『チーム・バチスタの栄光』で登場した垣内、黒崎、藤原、猫田、花房看護師たちも登場する。

さらにいうなら速水、島津、田口もほんのちょっとだけ出番がある。田口にいたってはオペ室嫌いの原因となった出来事も。

そしてオペ室の悪魔と呼ばれる渡海医師。

ガン告知がタブー視されていた20年前にあって、ためらうことなく実行する、この物語の最重要人物。

残念ながら白鳥は出てこない。

とはいえ、やはりこの著者の作品はおもしろい。

ドラマ『救命病棟24時』や東野圭吾の『使命と魂のリミット』で研修医の扱われ方、たとえば看護師より実質的な地位の低さ、労働時間の長さなどを多少知ってはいたものの、20年前となる全く想像がつかなかった。

ちなみに最近では大学病院での勤務が医大生に敬遠されがちだそうだ。

そんな研修医の前にあらわれた高階講師のキャラには驚いた。

病院長のときとはえらい違いで、速水とそっくり。

彼が手土産に持ち込んだスナイプ手術や、佐伯教授特注のブラックペアンと見所たくさんなので黒い表紙のこの本をぜひ読んでもらいたい。

ちなみに祖父が心臓の手術を受ける際、手術についての説明を聴いたのだが、手術の危険性について詳しく説明されてびっくりした。

今では患者のほうに選択権があるということで、危険性を承知の上でということらしいが、あの説明は応えた。

それらが起こる確率は15%だとおっしゃっていたが、80%ぐらいでおこりそうにきこえるから不思議だ。

一昔前まで患者の精神面、家族の心情を考慮して手術の危険性を説明しなかったのも納得できる。

■『プリズン・トリック』10/05/05UP



遠藤武文 講談社

帯に騙された

千葉県の市原交通刑務所で殺人事件が発生した殺されたのは石塚という男で、同時にいなくなった宮崎が行方不明のため、宮崎の足取りを追う。

本屋で衝動買いした。

キャッチコピーがこれだ“本年度(※2009)江戸川乱歩賞受賞作 乱歩賞史上最高のトリックだ。…選考委員東野圭吾氏 刑務所内での密室殺人 社会派でありながら超本格。読み落としていい箇所はラスト一行までどこにもない。 あなたは絶対に鉄壁のトリックを見破れない。 そして必ず、二度読む。

キャッチコピー長すぎ。

大好きな著者東野圭吾氏が最高のトリックと書いてあったので買ったわけだが、これは一本とられた。

受賞作がどうとかの問題でなく、トリックが気になるとかでなく、中盤が全くもって意味不明かつ退屈でラストに種あかしという唐突な感じを受けた。

ラストまで読まずに途中で違う本を読んだのは久しぶりだ。

個人的にはトリック以前の問題だった。

ひきこまれた序盤はよかったが、登場人物が多すぎて、事件の詳細があやふやなままラストに突入してしまっているため、そのトリックの意外性も今一つというとこ。

東野圭吾の選評もあとがきにあるが、中盤は目をつぶると書いてある。

残念だが、素人の自分は中盤で興味を失ってしまった。

■『プリンセス・トヨトミ』12/03/24UP



万城目学 文芸春秋

豊臣家の末裔を守れ!!

会計検査院第六局に属する松平、鳥居、旭の三人は大阪へ調査へ向かう。

その頃、空堀商店街でお好み焼き屋太閤を経営する幸一は、ある重大な大阪の秘密を息子大輔に打ち明ける。

その場所はなんと大阪城にある国会議事堂だった。

映画化された本のコーナーにあったことと、プリンセス・トヨトミという歴史を感じさせるタイトルにひかれた。

主要登場人物は、会計検査院の松平副長。

検査の鬼と呼ばれている。

中堅、鳥居。

新しいインクに反応する胃腸を持つ奇跡の男。

そして紅一点、旭・ゲーンズブール。

内閣法制局出身の超エリート。

対するは大阪サイド。

大阪国総理大臣である真田幸一。

その息子大輔。

そして大輔の幼なじみ橋場茶子。

主要登場人物はこの6人で、国の予算が自治体で適切に使用されているかを検査する会計検査院のメンバーが、大阪国に配分されている5億円の使い方に異論を唱え、対決する。

大阪国って?とか、プリンセスって?

といった疑問があるかと思うが、そこは読んでのお楽しみ。

注目はやはり、大阪国のシステムだ。

父から息子へ、その秘密が託されるのだが、その過程がとても興味深い。

昔からある慣習というものの大切さをそれとなく伝えてくれるいい作品である。

■『ブレイクスルー・トライアル』07/04/01UP



伊園旬 宝島社

及第点をかろうじてブレイクスルー

〜あらすじ〜

セキュア・ミレニアム社に勤務する門脇雄介。

彼の大学時代の友人丹羽史郎が「ブレイクスルー・トライアル」と銘打たれたセキュリティ・アタックイベントへ一緒に参加しないかと話をもちかける。

いちIT企業の最先端セキュリティを駆使した建物を突破し、マーカーを持ち帰れば1億円というイベントについての話。

金庫破りの現代版だ。

指紋認証、網膜スキャンなどよく知られたもの以外にもさまざまな生体認証についての蘊蓄がいっぱいだ。

だが、肝心のストーリーはいまひとつ華がない。

主要登場人物である門脇と丹羽にはお互いに隠しあっている過去があり、人物像に深みを与えたい筆者の意図はわかるが、語り口が淡々としているせいかかえって底の浅い人物になっている。

このミス5回目の大賞だが、『チーム・バチスタの栄光』ほどすすめはしない。

■『ブレイズメス1990』10/08/15UP



海堂尊 講談社

モンテカルロのエトワール登場!

1990年4月、世良は垣谷の学会発表のお供とともに佐伯病院長からある指令を受けていた。

それは、モナコ公国にあるモンテカルロ・ハートセンターの部長天城雪彦に手紙を渡すことだった。

『ブラックペアン1988』の主人公世良雅志が再び主人公として描かれている。

医者1年生だった世良が外部病院への出向から帰ってきてからの話。

医療崩壊の序曲をもう一人の主人公天城が語る。

この天城という人物は手術の技量は申し分ないのだが、性格にやや問題ありという人物。

海堂シリーズのファンならちょっとやそっとの変人にはビクともしないだろうが、彼の変人ぶりもなかなかである。

天城との出会いが世良の人生を変え、『極北クレイマー』の世良へとつながっていくのだろう。

といっても『ジェネラル・ルージュの伝説』では普通に東城大学附属病院にいた世良はどうなんだろう。

本作であれだけのことをしておいて1991年は普通にというのはおかしい気もするが、著者がなかったことにしてくれと言うなら喜んで従います。

ちなみにモンテカルロのエトワールはモナコでの通り名だ。

日本での通り名は「セイント・スクルージ」訳は“聖なる守銭奴”である。

『ブラックペアン1988』を読んだうえで読んでほしい作品である。
 



■『ベルカ、吠えないのか?』06/12/03UP



古川日出男 文藝春秋

軍用犬の歴史教科書?

〜あらすじ〜

第2次世界大戦敗戦国日本がアリューシャン列島の無人の島に残した4頭の軍用犬たち。

彼らの運命は。

帯に『TBS「王様のブランチ」でも絶賛!「これまで読んだことのないタイプのケタはずれの作品」−松田哲夫』とあり、古本屋で衝動買いしたわけだが、誇張宣伝

文の一つ一つがとても短く、サクサク読めるのだが、情報量が多いため、飲み込むのに時間がかかる。

そのため、読みすすめながらも、前に戻る必要があった。

主要登場人物の心理描写がほとんどないと言っていいほどで、犬の頭の中を短い文、カタカナで攻撃的かつ丁寧に描いてありますが、空気のような第3の語り手を感じさせる文章です。

なによりもこの本のラストを全く覚えていないという物語自体のインパクトのなさが致命的かと思われます。

■『変身』06/08/10UP



東野圭吾 講談社

変心

〜あらすじ〜

少女をかばい強盗犯に頭を撃たれた成瀬純一。

世界初、成人で脳移植を受け無事回復するが…。

変身といえば、仮面ライダーの掛け声なわけですが、『仮面ライダーカブト』は俄然盛り上がってきた。

それはさておき、『変身』のテーマは、ずばり

よくいえば心穏やかな青年、悪く言えば自己主張が苦手な主人公成瀬純一が、強盗に撃たれるという非日常的な事件に巻き込まれ、脳の一部に他人の脳を移植してもらうという話。

奇跡の生還を果たした青年は、少しずつ自分の心が変わっていくことに戸惑う。

自分の心が変わっていくという感覚は分かるだろうか。

自分は分からない。

自分が自分でない気がする、もう一人の自分がいる気がするというのと近いのだろうか。

とにもかくにも主人公に感情移入できなかったが、主人公の独白はとても悲しかったし、担当医師の報告による客観視は主人公の変身ぶりを忠実に再現していた。
 



■『放課後』08/02/28UP



東野圭吾 文藝春秋

東野圭吾のデビュー作

清華女子高校教師の前島は、何者かに命を狙われていると感じていた。

そんなとき職員用男子更衣室で生徒指導の村島教諭の青酸中毒死体が見つかる。

放課後といえば、学生時代、部活に明け暮れた。

ひたすら白球を追いかけた。

部活が終わってからは受験勉強だ。

できたばかりの鹿島市民図書館でパソコンで息抜きしながらがんばった。

大学時代はそういうわけではなかったが、愛知県では休み時間のことを放課と呼ぶことにびっくりした。

無駄話はさておき、この作品の語り手は脱サラし、数学教師となった男性教諭だ。

30過ぎで生徒に深く交わろうとはしない、少し冷めたところのある主人公。

彼の同僚教諭が殺される。

前島は第一発見者ということで、事件に深く関わっていく。

相変わらずの筆力、描写力、ストリーテリング、そして鮮やかなトリック、意外な犯人。

本格推理小説であることは間違いない。

これがデビュー作品というから驚きだ。

■『ホワイトアウト』05/06/24UP



真保裕一 新潮社

日本最大のダム奥遠和ダムが謎のテロ集団に占拠される。

彼らからの拘束を逃れた富樫輝男はたった一人でテロリスト、そして極寒の奥遠和に立ち向かっていく。

これも『ハリー・ポッター』のときと同じく、映画から先にみた作品。

九州育ちの自分にとって何mも積もる雪というのは想像がつかないため映画でみせてくれた雪の迫力はかなりのものだった。

しかし、小説のほうも活字とはいえ、背景描写がとても緻密で目の前でみているかのようにわかりやすかった。

映画のほうをみなくても十分

雪の描写が果たす役割はこの小説では非常に大きいため、著者も苦心したと思われる。

というか雪が陰の主人公といえるため、描写も細かい。

予想不可能なトリックと、ダムとはいえ、豪雪に囲まれ鉄壁の要塞と化した物語の舞台は緊張の糸が張り詰めていて本を置かしてくれない。

映画では表現しにくい主人公の心理描写がとても胸を打つ。

冒険小説ということで自分との戦いでもあるわけだが、ダムの運転員がテロリストに立ち向かうという普通なら瞬殺されかねない戦いをどうひっくり返すか、彼の心の動きがとても人間くさく、感情移入しやすかった。

精神が肉体を凌駕するとよくいうが、この作品にこそピッタリの言葉だと思った。

寒さを感じる内容ではあるんですが、読み終わった後は熱くなれる
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