咆哮と彷徨の記録

                              

■『佐賀北の夏』08/11/13UP



中村計 ヴィレッジブックス

がばい旋風2007

2007年夏、佐賀は暑かった。

いや、熱かった。

自分はニュージーランドにいて寒かった。

佐賀北高校が逆転優勝。

南半球で一人騒いでいた。

帰国後、録画されていた決勝戦をみたが、たしかに奇跡の大逆転劇だった。

これは生でスイカを食べながら見たかった。

その佐賀北高校の全国制覇の裏舞台が記されてある。

百ア監督、吉富部長、馬場、久保の二枚看板、満塁本塁打の副島、捕手市丸、中堅手馬場崎の話がメインである。

百ア監督の野球人生から、指導方針、趣味、こだわりなどから人柄が見えてくる。

野球部員の何名かが百ア監督目当てで佐賀北高校に進学したのもうなづける。

佐賀北の試合をみたとか佐賀についての知識がある人が読めばかなりおもしろいだろう。

はなわの歌程度の知識ではダメだ。

一番おもしろかった部分は、エピローグの部分だ。

提出物忘れなどで叱られることが一番多かった辻一塁手が就職し、ノックバットと素振り用バットを初給料でプレゼントしたそうだが、そのことを百ア監督は、

「バットで殴りにきたのかと思った」

という冗談で語った部分。

■『佐賀のがばいばあちゃん』07/02/12UP



島田洋七 徳間書店

おいのうっかんがしじいちゃん

B&B島田洋七さんの祖母伝だ。貧乏を気にもとめず、すべてを笑い飛ばす"おさのおばあちゃん″のパワフルな生活ぶりを孫の島田洋七(本名徳永昭広)さんの視点から綴られている。

2006年には、佐賀で映画が上映され、2007年1月4日泉水ピン子主演でドラマ化された。

ちょうどHDDレコーダーが家で稼動しはじめたころで、『佐賀のがばいばあちゃん』のドラマの録画予約を頼まれていたのだが、裏番組の『酔拳』を録画しだいひんしゅくをかった。

こんなに昔のことを思い出して書けるのはすごいと思う。それだけそれだけ"おさのおばあちゃん″のインパクトが強かった証拠だろう。

その点私の祖父もなかなかの変わり者である。

「ハレー彗星は日本が打ち上げたとかい。」

と言っていたそうだし、捨てること壊すことにかけては並々ならぬ情熱を注いでいる。

部屋のゴミを片付けていると頼んでもいないのにどこからかやってきて、壊し、捨ててくれる。

小、中、高のノート、教科書類のすべてはじいちゃんが捨ててくれた。

またこんなエピソードもある。

私の両親が共働きのため、祖母と曽祖父に面倒をみてもらっていた。祖母がちょっと用事があるとかで祖父に

「りょういちばみとってね。」:りょういちの面倒をみていてね。

と頼んだらしい。

その後、私はマジックを食べようとしていたらしく、戻ってきた祖母はそれをみつけ、

「みとってていうたろうもん!」:面倒をみていろと言っただろ!

怒り狂う祖母に対して祖父は

「みとったばい。」:みていたよ。

文字どおりじっと見ていたらしい。

最新のエピソードは、散歩だ。

朝の散歩が日課のようで、夜も明けていない早朝を蛍光のたすきなしで歩いていて、同じく早朝出勤だった父を駅まで送っていた母があやうく轢きかけたらしい。

"おさのばあちゃん″とは違う意味で私の祖父は私に笑いという刺激を与えてくれる。

■『殺意は必ず三度ある』12/09/22UP



東川篤哉 実業之日本社

鯉ヶ窪学園探偵部再び!

相変わらずの鯉ヶ窪学園探偵部の3人の前に野球部キャプテン土山が相談事を持ってくる。

その相談の内容とは、朝6時半からの早朝練習時にグラウンドにベースがないという珍事件についてだった。

普通ベースは練習後に片付けるものだが、まあ細かい事はおいとこう。

そんな縁もあり、探偵部の部長多摩川流司と部員赤坂通は、鯉ヶ窪学園と飛龍館高校の練習試合の観戦に完成したばかりの飛龍館野球場へ。

キャプテンの土山のサヨナラホームランで試合の幕が閉じたかに見えたが、バックスクリーンをのぞきこんだセンターがなんと鯉ヶ窪学園の監督野口啓次郎の死体が見つけたのだ。

今回の舞台は野球場。

野球場を舞台にしたミステリは私にとって初めてだ。

事件の解決に乗り出すのはもちろん主人公の3人だ。

前作では顧問の石崎に助けられたが、今回は?

私自身、小学校から野球をしていたため、とてもおもしろく読むことができた。

ここまで出版された東川篤哉作品のなかでダントツの1位だ。

まあ、野球をしていたからという贔屓目はぬきにしてもおすすめの青春ミステリとなっているのでぜひ甲子園の真っ只中に読んでもらい作品だ。

■『殺人の門』06/12/05UP



東野圭吾 角川書店

人が人を殺すということ

〜あらすじ〜

歯医者の息子として生まれ、何不自由なく暮らすはずだった田島和幸、彼の人生を狂わせたものとは…。

推理小説では、殺人がおき、探偵役が謎を解き明かすというのが主流だが、殺人までの過程が描かれるというのは稀だろう。

この本は、人を殺したいと幼少の頃より考え続けた主人公、田島和幸の心理描写を極限までリアルに描いた作品だ。

人が殺人を犯すには何が必要なのか、それらが不気味なほどに感じられる。

印象に残ったセリフは、「動機も必要ですが、環境、タイミング、その場の気分、それらが複雑に絡み合って人は人を殺すんです

この本を読んだあとだと、コナンとか金田一少年の殺人犯の存在が薄く感じられた。

■『砂漠』07/01/04UP



伊坂幸太郎 実業之日本社

砂漠に雪が降るのか?

〜あらすじ〜

仙台の大学に入学した北村は、鳥井、南、西嶋、東堂らと普通のようで普通でない砂漠に出る前のオアシスを体験する。

社会人生活を砂漠とたとえ、その手前の大学生活を舞台にした人間ドラマ。

北村からの視点のみで、無個性に近い彼の視点からお調子者鳥井、超能力者南、美人だが愛想がない東堂、世界の平和を憂い嘆く西嶋の個性的な4人が描かれている。

1年の春、2年の夏、3年の秋、4年の冬、4年の卒業時の春の5章仕立て。

麻雀についての講釈も多々あるため麻雀についての知識が皆無の自分にはきつかった。

とりあえず、平和という役があって、点数にならないということがわかった。

■『さまよう刃』10/05/31UP



東野圭吾 角川書店

未成年の凶悪犯罪をどう裁く

半導体メーカーで働く長峰重樹は高校生になったばかりの娘絵摩と暮らしていた。

その最愛の娘が花火大会の帰りにいなくなってしまった。

彼女は帰り道で未成年の少年たちに車で連れ去られ、薬をかがされ暴行を受け死亡したのだった。

娘の死から立ち直れないまますごしていた長峰の携帯に犯人の名前と住所の情報提供のメッセージが残される。

情報を手がかりにその住所へ向かい、部屋で見つけたものは絵摩が暴行を受けているシーンだった。

長峰は怒りのまま帰宅した犯人の少年を刺し殺してしまう。

映画化された衝撃作だ。

かぎりなく同情できる犯罪被害者が加害者になり、さらにもう一人の未成年の犯人に復讐しようとするのだが、それについてどう思うかを深く描いた物語。

法で裁かれるべきだ、殺してはダメだと決め付けてしまっていいのか、被害者はそれで納得できるのかという答えの出ないテーマがのもと話がすすんでいく。

長峰、警察、そして犯人の遊び仲間の中井誠の3つの視点から事件は展開していく。
 




■『ジェネラル・ルージュの凱旋』08/04/17UP



海堂尊 宝島社

アクティブフェーズの進化形登場

『チーム・バチスタの栄光』を書いた海堂尊のメディカルエンターテインメント。

感想を書いたのは2作目『ナイチンゲールの沈黙』、『螺鈿迷宮』に続き4作目だ。

ただ、『螺鈿迷宮』は出版社が違うため装丁が全然違う。

話は伝説の歌手水落冴子が倒れた日から始まる。

たまたま居合わせた如月翔子、浜田小夜看護師が東城大学医学部附属病院へと搬送する。

この場面は『ナイチンゲールの沈黙』の冒頭と大体同じ。

つまり『ナイチンゲールの沈黙』と同時進行で起こっていた出来事。

浜田看護師視点からの前作から一転、今回は如月翔子からだ。

彼女はICU担当でICUセンターを統轄するのはセンター部長の速水晃一。

シリーズの主人公田口と大学時代の同期で、ジェネラル・ルージュ(血まみれ将軍)の異名を持つ。

バチスタスキャンダルのさい、リスクマネジメント委員会委員長に就任した田口のもとへ、速水が特定の医薬品メーカーと癒着しているという告発文書が届く。

本作は田口、如月、ICU師長花房、ICUセンター副部長代理佐藤の視点から。

もちろん火喰い鳥こと白鳥も登場する。

そして、噂の白鳥の部下氷姫こと姫宮も登場。

『ナイチンゲールの沈黙』と重なる部分があり、田口、白鳥の出番が少ないので、序盤はやや退屈したが、中盤から後半にかけての倫理委員会、リスクマネジメント委員会の話し合いで爆発、夢中で読み終えた。

『チーム・バチスタの栄光』も上映中で絶好調のこのシリーズはぜひ読んでもらいたい。

読む順番は出版順でお願いします。

ちなみに妹がこの本を読みたいと言い出したため、『チーム・バチスタの栄光』からシリーズ全部貸した。

しかし、『ジェネラル・ルージュの凱旋』だけでいいと。

この本から読んでもおもしろさ7割カットだと言ったが、聞く耳もたず、結局読まずに返してきた。

『ダ・ヴィンチ・コード』も貸したが読まずに返却。

親父も貸してくれと言ってきたので、貸したのだが読まずに返却。

妹と親父は、私に自分のオススメの本を貸しつけて、読ませて感想を求めてくるくせに、自分から借りた本は読まないという理不尽ぶり。

私の本を借りて読んでくれるのは叔母だけである。

■『ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて』10/01/29UP



海堂尊 宝島社

速水の伝説

『ジェネラル・ルージュの凱旋』で語られる城東デパートの火災で運ばれてきた患者を処理した速水晃一の伝説を詳しく描いたもの。

といっても100ページ足らずなので、残りは著者の作品紹介、舞台背景、半自伝記となっている。

お気に入りの作家なのと、伝説を読みたかったのですぐ購入した。

速水の伝説だけでなく、著者の解説がまたおもしろい。

作品誕生の秘話、生い立ちなどいろんなエピソードが織り交ぜてありとても興味深く読める。

自分を納得させながら書いているところがまたいい。

ファンの方以外が読むのはおもしろくないかもしれないが、シリーズのファンなら、本作以上の楽しめる内容になっているので、買っても損はないし、立ち読みでふきだしてもいいだろう。

■『死神の精度』06/07/02UP



伊坂幸太郎 文藝春秋

死神はつらいよ

〜あらすじ〜

人間の病死、自殺以外の死を判断し、その人物の死を見届ける死神・千葉。彼が調査することになった6人の人間の物語。


『ブリーチ』、『デスノート』と死神を取り扱った漫画は数あれど、この本における死神の基本スタンスは全く別物。

人間の姿に変わり、対象となる人間を調査。

といっても点数付けをしたりといった細かいマニュアルがなく、あくまでも死神の主観で、可か見送りをきめる。

可ならば、翌日に死亡、見送りならば、死ぬことはない。

そんな死神・千葉が関わる人間たちとの物語は6つの話で構成されている。

「死神の精度」、「死神と藤田」、「吹雪に死神」、「恋愛で死神」、「旅路を死神」、「死神対老女」。

帯に記されたキャッチコピーは、「音楽だけが俺たちの魂をゆさぶる」。

死神は音楽を偏愛しているという設定になっていて、千葉が音楽に聞き入るシーンが何度も見られる。

作中ではあくまでも“ミュージック”と表記されていて、なんらかの意図、メッセージが込められているようだが、残念ながら読み取ることはできなかった。

この本の最大の特徴は、死神のお仕事日記と化しているところで、死神という人間とは全く異なった不死の生物からの視点を用いているところ。

人間が死に対して意識が低いところや、自己啓発に無関心なところなど、人間から距離をおいた冷静な人間観察には納得させられるところが結構ある。

「旅路を死神」の一部分。


  人間は、何を見ても人生と結びつけるのだ。

確かにと納得した。

そして、『グラスホッパー』といい、この『死神の精度』といい、死と深く関わる話なのに、全く重苦しさがないところが著者・伊坂幸太郎さんの特徴といえるかもしれない。

決して軽々しくなく、感動的でなく、同情を誘うでもなく、あくまでも真実として、ありのままに描いているからなのかもしれない。

ページ数も少なめで、サクサクと読みすすめることができる。

日本語独特の言い回し、レトリックに苦労する死神をみたいかた、自分は雨男、雨女だという方、そしてこの梅雨の季節にぴったりの一冊。

■『使命と魂のリミット』07/04/18UP



東野圭吾 新潮社

医療ミスをテーマにした人間ドラマ

〜あらすじ〜

研修医の氷室夕紀は、帝都大学病院の研修プログラムを受けていた。

彼女は、父の死に疑問を持ち、心臓血管外科医を目指していた。

一方、同病院に入院しているアリマ自動車社長島原総一郎に恨みを持つ直井穣治は、看護師真瀬望から彼の情報を得て、復讐の機会をうかがっていた。

父の手術を担当した西園教授も同病院に勤務していて、夕紀は彼の手術ミスを疑っている

研修医の仕事に忙殺されながらも、父の死の真相をさぐる。

しかし、西園と夕紀の母が恋人同士になったことで、彼女の疑いは濃くなっていく。

彼女は真相を知ることができるのだろうか。

そこに刺激を加えるのが、復讐を企てる直井穣治。

彼は島原総一郎を殺すために行動する。

そして、刑事七尾

夕紀の父のことを知っていてかつ、一匹狼の刑事。

レイモンド・チャンドラーが描くマーロウみたいなやつだ。

夕紀、直井穣治、七尾とこの3人の視点から話はすすんでいく。

序盤の丁寧な人物描写のおかげで、クライマックスにかけての盛り上がり、登場人物の心理状態のうつりかわりはすさまじい迫力だ。

夕紀の亡き父の言葉などいくつもの伏線によって主題としてかなりのインパクトだ。

シャーロック・ホームズ■05/06/27UP



コナン・ドイル Sir Arthur Conan Doyle

訳:延原謙

『緋色の研究』『四つの署名』『シャーロック・ホームズの冒険』『シャーロック・ホームズの思い出』『バスカヴィル家の犬』『シャーロック・ホームズの帰還』『恐怖の谷』『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』『シャーロック・ホームズの事件簿』

自分の考え方に多大な影響を与えた作品。

コナン好きの自分にとって、コナンが尊敬するシャーロック・ホームズにも興味があった。

そんなこんなで読み始めたこのシリーズだが、まずシャーロック・ホームズの性格、人柄に驚いた。

自分の想像ではコナンの大人バージョンだと思っていたので常識ある人物かと思っていたからだ。

作品についてみていくと、『緋色の研究』『四つの署名』『バスカヴィル家の犬』『恐怖の谷』が長編小説で、残りが短編集。

タイトルは新潮社文庫の表記にしたがい、おすすめの読む順番を引用した。

この順番のほうが年を重ねる二人と著者の筆の円熟度も増していっておもしろいと思う。

内容は彼の相棒ジョン・ワトスン博士からみたシャーロック・ホームズについての話で、彼に振り回されっぱなし。

パシリとまではいわないが、結構毒を吐いている。

短編のいくつかにシャーロック・ホームズ本人視点、第三者視点があります。しかし、外伝的なものであって、ワトスン博士が描くシャーロック・ホームズが一番おもしろい。

ワトスンの視点が我々読者との視点と重なりやすいので、ホームズの魅力をめいいっぱい楽しむことができる。

世界最高の名探偵ということでこのシリーズを読んだことがない人にとっては多少の誤解があると思う。

はっきりいって変人だ。

一番好きな作品は二人の出会いを描いた『緋色の研究』。

■『終末のフール』07/03/24UP



伊坂幸太郎 集英社

小惑星衝突まであと3年

「終末のフール」、「太陽のシール」、「籠城のビール」、「冬眠のガール」、「鋼鉄のウール」、「天体のヨール」、「演劇のオール」、「深海のポール」

8年後、小惑星が地球に衝突すると発表される。

そして5年がたった仙台市ヒルズタウンに住む人たちの8つの物語。

8つの短編からなり、舞台、設定は一緒で、語り手が替わる。

死を3年後に控え、受容しつつある者、足掻く者など様々な登場人物が、死というもの、人生というものについて考える。

各登場人物らがリンクし、交錯する。

3年後に死を控え、人々はどう毎日を過ごすのか、絶望と希望が交わる筆者の書き方は絶妙で、暗さを感じさせない。

もし登場人物と同じ状況に陥ったらどうするだろうか。

まず、農業関係の仕事に従事していなかったことを悔いるだろう。

そして、仕事を辞め、自家栽培できる野菜を育てる。

小惑星衝突まで生きたいと思うだろう。

電気が供給されれば、このサイトも存続し、可能なかぎり更新しつづける。

まだ感想を書いていない本、映画があるので、1年はもつかもしれない。

もしもシリーズで、「明日死ぬなら、何をしますか?」みたいな質問があった気がするが、8年というのは長すぎてピンとこない。

■『重力ピエロ』06/11/28UP



伊坂幸太郎 新潮社

親子の絆とは

〜あらすじ〜

遺伝子関係の仕事に就いている泉水は弟の春から、ここ最近連続しておきている放火とグラフィティアートに関係があると聞かされる。

語り手である泉水は、途中参加が嫌いな好奇心旺盛な人物で、彼の視点から物語は語られる。

登場人物は、弟春、父、葛城、探偵黒澤、郷田順子と少ない。

放火犯はなぜ、グラフィティアートを書き放火するのか、父の癌、謎の美女郷田順子の不可解な行動と見逃せない内容だ。

また、遺伝子に関しての蘊蓄、映画作家ジャン=リュック・ゴダール、春と泉水の軽快なやりとりなど読みやすくもあり、内容もあるというお得な本だ。

■『宿命』07/02/06UP



東野圭吾 講談社

宿命の対決

〜あらすじ〜

瓜生電子工業の須貝氏清が何者かにボウガンで打たれ死亡する。捜査に乗り出した和倉勇作の前にはかつてのライバル瓜生晃彦がいた。

私にもライバルがいた。

自分だけが意識しているだけだったと思うが、実力も同じぐらいか自分以上で尊敬でき、目標でもあるという人物だった。

この本のように宿命のライバルがいたかと聞かれたら、それはいないと答える。

互いに競い合い、お互いを高めあうライバルの存在は貴重だ。

しかし、運命に導かれるような宿命のライバルがいるという経験はめったにないと思う。

本作は、医者の道を諦めた刑事和倉勇作と瓜生晃彦の因縁の物語だ。

といっても『デスノート』の夜神月とLのように表立って火花を散らすわけではない。

和倉視点とそのかつての恋人であり、晃彦の妻である美佐子の視点から物語は進む。

和倉と晃彦に何があったのか?美佐子の運命は?最後のページに収束されていく傑作ミステリーだ。

■『ジョーカーゲーム』09/11/05UP



蜊L司 角川書店

昭和12年秋、結城中佐の発案で「情報勤務要員養成所設立準備事務室」、通称"D機関″が開設される。

欧米との情報戦に対抗するためのスパイ養成学校だった。

D機関の工作員と結城中佐のお話である。

本作『ジョーカー・ゲーム』には5つの短編が含まれている。

D機関の開設初期を描いた「ジョーカー・ゲーム」、訓練を終え任務についた工作員の話である「幽霊」、「ロビンソン」、「魔都」、「XX」で構成されている。

スパイ系の小説はあまり読んだことがなかったのでとても新鮮だった。

時代も第二次世界大戦前というスパイハイテク機器がない時代なので工作員の頭脳のみが武器となっている。

どのエピソードにも関わってくるのが魔王こと結城中佐だ。

第一次大戦時は凄腕のスパイだったという設定で、毎回不気味な影をみせている。

工作員視点の場合もあれば、一般人視点もあり、超スパイ集団D機関の活躍、いや、結城中佐のすごさを描いている。

こんなすごい工作員がはたしているのだろうかという書きっぷりだが、SFじみたハイテク機器が描かれているよりよっぽどいい。

スパイの精神、ありかたもといてあるこの本は一読の価値ありだ。

5つのなかでもおすすめは「ジョーカー・ゲーム」だ。

陸軍とD機関の間で翻弄される主人公にとても感情移入できる。

■『小説ルパン三世』12/09/30UP



大沢在昌、新野剛志、光原百合、樋口明雄、森詠 双葉社

ルパン三世活字

国民的人気キャラクタールパン三世の小説版だ。

「拳銃稼業もラクじゃない」、「バンディット・カフェ」、「1−1=1」、「深き森は死の香り」、「平泉黄金を探せ」の5つの短編が収められている。

「拳銃稼業もラクじゃない」は、早撃ち大会に参加することになったルパンたちとこの国の王女のお話。

次元の弟弟子が登場し、話を盛り上げる。

「バンディット・カフェ」は、金庫破り血祭三郎が持つ鍵を求めて、カフェにやってきたルパン一行だったが、伝説の大泥棒ジャン・パタンの金庫を開けるハメになる。

「1−1=1」は、物語の視点がルパンたちではなく、錠太郎という金庫作りの職人が主人公だ。

葛城という大富豪から金庫作りを依頼される。

葛城は、玉野蒼司という画家の絵を寵愛していて、その絵をルパンから守りたかったのだ。

このルパン一味VS錠太郎の頭脳戦が見所、個人的には5つのうちで一番のおすすめだ。

■『人格転移の殺人』07/06/15UP



西澤保彦 講談社

人格転移装置で空騒ぎ 

〜あらすじ〜

苫江利夫は、ショッピングモール内のチキンバーガーの店にいた。そこで大地震がおき、近くにあったシェルターに逃げ込んだ。

意識を失った江利夫だったが、目をさましたとき自分の体に異変がおきていた。

実はシェルターというのが、人格転移装置だった。

登場人物は、社会心理学者ダニエル・アクロイド博士、人格交換が行われる第二都市の研究をしている。

同研究員ジンジャー・ピンホルスター、CIAの情報部員デイヴ・ウイルスン、以上がプロローグの登場人物たちだ。

彼らは人格転移装置の仕組み、ルールを説明してくれる。

本編で起こる殺人事件の根幹となるシステムの説明だ。

システムの説明がないまま事件が立て続けに起こっても読者には意味不明なので、これは適切な構成だったろう。

事件の謎解きとあわせてシステムの説明だったらとてもじゃないがついていけなかった。

本編の登場人物は、苫江利夫、33歳、某総合電機メーカー勤務。

この事件の記録者だ。

つづいてボビイ・ウエッブ、16歳アメリカ国籍、黒人。

江利夫たちがいたチキンバーガー店の手伝いをしている。

つづいてランディ・カークブライド52歳、アメリカ国籍、白人、スケベ親父。

ジャクリーン・ターケル、24歳、英国人、女優志望。

アラン・パナール、20歳、フランス人、学生。

ハニ・シャディード、28歳、アラビア人、アパート経営。

窪田綾子、学生、大地震でシェルターに逃げ遅れ死亡。

これら7人が主な登場人物だ。

なんとなく映画の『CUBE』に似ている。

それはともかく、窪田綾子を除いた6人が人格転移装置のなかにシェルターと間違えてとびこんだために人格が転移する。

ナメック星でギニューと悟空が入れ替わったやつの6人バージョンというわけだ。

彼らは隔離され、今後のことを話し合うことになるのだが、夜が明けた時、誰かが殺されている。

そんなわけでとてもややこしい設定で、感情移入することは難しいが、他人の不幸は蜜の味というか、体が替わって混乱する登場人物たちがとても愉快に感じられた。

■『新参者』10/06/17UP



東野圭吾 講談社

加賀恭一郎、日本橋に現る

一人暮らしの45歳の女性が自宅のマンションで首を絞められ殺されていた。

殺人事件として日本橋署の配属された加賀が事件の捜査に乗り出す。

タイトルの新参者は異動したばかりの加賀ともう一人の人物のことを指している。

章ごとに主人公が設定されている。

章のタイトルは、「煎餅屋の娘」、「料亭の小僧」、「瀬戸物屋の嫁」、「時計屋の犬」、「洋菓子屋の店員」、「翻訳家の友」、「清掃屋の社長」、「民芸品屋の客」、「日本橋の刑事」。

謎解きはもちろん最後の「日本橋の刑事」でされる。

そこに至るまで昔ながらの店が並ぶ日本橋の店の人物達にも事件と関連した謎があるのだが、その謎を加賀がといていく。

最終的にそれらの細かい謎が殺害された女性の行動、そしてなぜ殺されたのかを明らかにしていくという外堀からジワジワ埋めて最後に本丸を攻めるといった感じになっている。

ドラマ化されるまでが早かった。

阿部寛が加賀という設定にはかなり違和感を覚えるが、ドラマは観ていないのでまあいいだろう。

人情味あふれた登場人物たちと加賀のやりとり、駆け引きはなかなかおもしろい。

加賀恭一郎シリーズが好きな人にもこの著者が好きな人にも当然おすすめだ。

気になるのは最後の章にあった日本橋署の異動させられた理由だ。

「赤い指」の事件のことを言っているのだろうか。


■『シンメトリー』11/12/31UP



誉田哲也 光文社

姫川玲子シリーズ第3弾の短編集

『東京』、『過ぎた正義』、『右では殴らない』、『シンメトリー』、『左だけ見た場合』、『悪しき実』、『手紙』の7編から構成されている。

上のように横文字にするとわからないが、たてに並べるとシンメトリー、左右対称の構成となっている。

右と左、悪と正義など文字の意味も対称的だ。

『ストロベリーナイト』、『ソウルケイジ』で活躍した姫川玲子が事件を解決する短編集だが、玲子視点ばかりではないのが本作の魅力。

彼女の魅力的な部下たちもそろって登場する玲子のことを思う熱血漢菊田などだ。

本格警察小説に属するなかでも異質なタッチの小説だが、神がかった名探偵たちより、玲子の人間くささは見ててほっとする。

■『ジーン・ワルツ』08/06/15UP



海堂尊 新潮社

産婦人科の危機

〜あらすじ〜

帝華大学産婦人科学教室の助教授曾根崎理恵。

不妊治療を専門としていて、週1回マリア・クリニックに非常勤医として通っていた。

しかし、マリア・クリニックは閉院が決定していた。

最後の妊婦は5人だった。

今回は出版社も今までも異なっているが、これまでのメディカル・エンタテインメント路線から一転、産婦人科医不足の実態に深く切り込んだ社会派作品となっている。

笑うところなど皆無、すさまじいまでの厚生労働省批判だ。

それをうけておなじみ白鳥技官の医療過誤第三者的どうてろこうてろが設置されたことになっている。

話の本筋はマリア・クリニックの妊婦達の経過と主人公の発生学の講義。

出産に関する物語ということで、読者の理解を助けるべく発生学の講義が妊婦達の経過と同じ時系列で書かれているのはとても親切。

僕の中の脳内妄想では、曾根崎理恵のモデルは松雪泰子、同僚の清川准教授は中村トオル。

『救命病棟24時』の影響が強く残っている。

ジーンつながりだが竹内結子はキャラが違いすぎる。

この本を読んだあとだとAVの中だしものとか不謹慎すぎると感じる。

嫌いではないが。

ちなみに本作は一応『チーム・バチスタの栄光』などに登場した人物たちの登場は全くない。

第2作目『ナイチンゲールの沈黙』の小児科医副島真弓の名前がちらっと出るぐらいで、関連性はほぼない。

ゲスト出演ぐらいあってもよかったのに。

母がヨン様に熱中していることはこのサイトでもたびたびとりあげてきたが、ヨン様関連の雑誌はほぼ100%買い揃えるほどだ。

『女性自身』6月24日号(※最近初売?)をたまたまみていたら、福島県立大野病院産科医逮捕事件についての記事があった。

この本のこともあったので、しばらく読みすすめていたら、1年後に逮捕とか、1万件に2,3件のことだとかどこかで聞いたことあると。

熟読してみたら、びっくり、なんとこの本のなかの登場人物マリア・クリニックの病院長の息子の事件とそっくり。

著者はこの事件の医師を擁護するために書いたのかとわかった。

ウィキペディアのリンクはこちら
 





■『数学的にありえない〜IMPROBABLE〜』07/04/10UP



アダム・ファウアー Adam Fawer

訳:矢口誠 文芸春秋

むしろこの小説がありえない

〜あらすじ〜

驚異的な暗算能力を持つデイヴィッド・ケインは癲癇発作に悩まされ、さまざまな治療薬を試すも完治にいたらずにいた。

一方CIAのナヴァは、北朝鮮との取引に失敗し、ドクター・トヴァスキーの実験内容とアルファ被験体の回収を命じられる。


統計学、確率論、量子力学、物理学の蘊蓄を駆使したサスペンス小説だ。

主人公のケインはギャンブル依存症。ポーカークラブで1万4千ドルの借金を負ってしまう。

自堕落な生活に身を落とした男が、癲癇発作の新治療薬で、未来予知の能力を手に入れる。

どこかで聞いたことがあるような話だが、なんとなく『マトリックス』に似ている。

ごく普通の男が超能力を手に入れて変わるというやつだ。最後のほうのケインとネオが重なってみえた。いや読めた。

理系向きの小説ではあるが、コインの話や、決定論、ラプラス理論などはわかりやすくてとてもおもしろかった。

■『ズッコケ中年三人組』06/06/23UP



那須正幹 ポプラ社

〜あらすじ〜

40歳になったハチベエ、ハカセ、モーちゃんの3人は、28年前に追いつめた怪盗Xの挑戦を再び受けることになる。

『ズッコケ三人組』といえば、児童書の中ではトップクラスの怪物シリーズだ。

いまでも少年少女たちの間では知名度がそこそこあるようだ。

内容は、決して大人向けになったとはいえず、あくまでも児童書の範囲内といえる。

大人の会話もあるが、それは彼らが40歳になったということだろう。

これといって特筆すべき点はないが、小さい頃に『ズッコケ三人組』にお世話になった大人がノスタルジックな雰囲気にひたりたいのなら、ご購入をおすすめする。

しかし、あくまでも児童書に毛が生えた程度だということをお忘れなく。

■『ストロベリーナイト』09/04/29UP



誉田哲也 光文社

本格刑事物

刑事ドラマというと『踊る大捜査線』、『相棒』あたりしか見たことがないが、警察という組織についてはなんとなく理解があると思っていた。

しかし、この作品はより実情を描いているように感じた。

主人公たちにスポットライトがあたり、彼らの強引な捜査が実を結ぶ、おいしいところを持っていくのは主人公たちだ。

だが、現実的にはありえない。

それを教えてくれる作品でもある。

まあ、それは付随的なもので、この作品の本質はそこにあるわけではない。

あらすじはこうだ。

警視庁捜査一課殺人犯捜査係主任の姫川玲子は青いビニールシートにくるまれた死体の事件を捜査する。

死体には多くの擦過傷があった。

死体遺棄現場に疑問を持った姫川は、すぐ近くの溜池のすてるつもりだったのではないかと推理する。

いきつけの本屋でイチオシと銘打たれていたので、ミーハーなわたしはすぐに買った。

冒頭はとてもグロい描写から始まる。

推理、サスペンス系でここまでひどいのは『羊たちの沈黙』以来か、これはニュージーランドの宿にあった。

そして主人公姫川玲子が登場する。

30才前で叔母からお見合いを持ちかけられる仕事一筋の女性だ。

作中の描写では長身で童顔らしい。

ノンキャリアにしては異例のスピード出世で警部補だ。

そんな彼女が事件の真相に迫っていくのだが、彼女からの視点のみだけだったらこの本はそこまでおもしろくなかったかもしれない。

魅力的なキャラクターがいるのだ。

同じ係だが班が違う、“ガンテツ”こと勝俣だ。

姫川の過去のトラウマをほじくりかえすという最悪の登場だったが、彼の登場で物語が一気におもしろくなった。

本格刑事物、勝気な女性刑事が活躍するのでそのあたりにストライクゾーンがあるかたにおすすめだ。
 






■『聖骸布血盟〜LA HERMANDAD DE LA SABANA SANTA〜』06/07/20UP



フリア・ナバロ JULIA NAVARRO

訳:白川貴子 講談社 

みなさんは聖骸布って知っているだろうかか。

聖骸布とはキリストの磔刑後、キリストを包んだ亜麻布のこと。

それにはキリストの姿があるとのこと。

今日紹介するのはその聖骸布をテーマとした歴史ミステリーだ。

いきつけの本屋で、文庫本『ダ・ヴィンチ・コード』の隣におかれていたため、旅のお供にと購入した。

『ダ・ヴィンチ・コード』ブームに便乗して陳列されたことは間違いない。

自分のような購読者がいるんだから。

トリノ大聖堂の火事から始まる本筋2000年前にさかのぼって綴られる聖骸布の歴史が交互に展開していく。

『ダ・ヴィンチ・コード』の隣においてあるだけあって内容もよく似ている。

本筋のほうは、美術特捜部がトリノ大聖堂の火事の捜査にあたるところから始まる。

部長のマルコは火事の原因が聖骸布にあると確信し、捜査を進める。

歴史講釈中心の話が終盤近くまであり、話の進みは遅い。

一方、聖骸布の歴史は、ハンセン病にかかった王を救うべくナザレのイエスを訪ねるところから始まる。

登場人物の数が圧倒的に多いが、それほど難しくもなく、2度読めば十分。

どんでんがえしや感動もありませんが、聖骸布の入門編としてはいいかもしれない。

■『生協の白石さん』06/01/04UP



白石昌則・東京農工大学の学生の皆さん 講談社

学生や教職員など生協の組合員が、生協への要望を自由に書けるアンケート用紙‘ひとことカード’のやりとりを書籍化したものだ。

どこの大学のひとことカードのやりとりかというと、東京農工大学。

この生協の職員白石さんと学生のやりとりが1ページに1つずつある。

150ページと1時間ぐらいで読破できる代物。

全部で108つの要望&回答が掲載されている。

合間に白石さんのコメントが挿入されている。

これで税込み1,000円は自分にとって高すぎる。

白石さんの切り返しはすばらしいし絶妙。

笑点の7人目やおもいっきりテレビの電話相談に適任。

または、『生協の白石さんがうまく答えます。』というタイトルで癒し系としてズバリの占い師を降板させてもいい。

冗談はさておき、この本には白石さんの仕事に対する誇りと学生への愛が溢れている。

血なまぐさいサスペンスの箸休めに読むには最適の一冊かと。

ただ、1,000円はやっぱ高い。

■『聖書の暗号〜THE BIBLE CODE〜』06/09/06UP



マイケル・ドロズニン Michael Drosnin

訳:木原武一 新潮社

偉大なる聖書

世界最高のベストセラー聖書に暗号が隠されているというのを説明してある本を紹介する。

予言や占いに全く興味のない自分ですが、暗号とあって古本屋で衝動買いした。

内容は、旧約聖書の文章からスペースを抜き、等距離文字列法に基づいたコンピュータ・プログラムによって、世界の主要な出来事が西暦、人物、場所と共に浮かび上がるというもの。

自分で書いていてもよくわからなかったのだが、詳しくは、本で解説してある。

予言してあったというのは、阪神大震災、大恐慌、第2次世界大戦、湾岸戦争など。

一番最近のものでは、日本で2000年と2006年に大地震が起こるそうだ。

それはともかく、予言が隠されているというのは、正直信じがたかった。

ヘブライ語も読めないし、複数の未来が予言されているということだし、なにより偶然で片付けられたり、他の本でも同様なことが可能かもしれないからだ。

著者もあくまで、最初は、信じていなかった。

しかし、ここまで偶然が重なることはありえない、聖書の暗号は存在する。

終始その主張を繰り返している。

聖書に興味のある方、神の存在を信じたいという方はどうぞ。

■『聖女の救済』09/04/27UP



東野圭吾 文藝春秋

驚異のトリック

真柴義孝から離婚してくれといわれた綾音。

彼女は彼を殺すことを決心する。

真柴義孝氏が死んだ、草薙、内海の両刑事は捜査を開始する。

草薙の捜査に疑問をもつ内海は捜査協力を拒み続ける湯川の研究室へ。

物理学者湯川学シリーズの長編であり映画化された『容疑者Xの献身』に続く長編だ。

『容疑者Xの献身』はすごい殺人トリックだった。

あれをこえるものはそうそうないと思っていた。

しかし、勝るとも劣らない傑作となった。

題名も秀逸、この傑作に相応しい名前だ。

とにかくおもしろい、ネタばらしはわたしの得意技だが、この小説を楽しんでもらうためにこのあたりで筆じゃなかったキーボードをとめたい。

必読の傑作だ。

■『聖杯の探索〜La Queste del Saint Graal〜』05/06/18UP



作者不詳・中世フランス語散文物語/訳:天沢退二郎 

キリストが最後に使った杯を求めてアーサー王伝説でおなじみの円卓の騎士たちが様々な困難に立ち向かっていく。

主人公はガラアド(ガラハッド)で危険な席に座った、最高の騎士

聖杯といえばキリストが最後の晩餐のさいに使用した杯で、アリマタヤのヨセフが十字架からの血を受けた杯のことだ。

『インディ・ジョーンズ』でも登場する。

『ダ・ヴィンチ・コード』では〜。
 
この本はフランス語文献を訳してあるので、聖杯探索の旅に出た円卓の騎士たちの名前が異なっている。

アーサー王=アルテュール王、ガウェイン=ゴーヴァン、ランスロット(ラーンスロット)=ランスロ

話の中身はいたって単純、円卓の騎士たちに待っている冒険(アバンテュール)とその意味の二段構えでつのエピソードが成り立っている。

騎士たちが不可解な夢、出来事に遭遇し、その理由を隠者が説く、そして騎士たちは納得し、神(主)、キリストに感謝する

隠者が説くことはだいたい同じで手抜きにもほどがあるが、真面目で学習能力のない騎士たちはそのことに気付かない。
 
登場人物たちは敬虔なキリスト教徒たちなので話もそちらの要素が大変強い。

いかに宗教が人の行動に影響を及ぼしていたかがわかる。

キリスト教徒でない自分にとっては「神は寛大=悪いことをしても罪を告白すれば何をしてもよい」ともとれるし、「純潔でないと聖杯の探索は成功しない=神は寛大でない。」となり矛盾しているように思われ、キリスト教はなんでもありのイメージがついた。

宗教って自分の行動を正当化するための道具みたいなものなんで‘なんでもあり’のほうが多くの人に受け入れられるのかもしれない。



/聖杯の探索―作者不詳・中世フランス語散文物語/Amazon.co.jp
 



■『ソウルケイジ』10/12/02UP



誉田哲也 光文社

姫川玲子再び…(゜∇゜ ;)

高岡工務店のガレージに大量の血痕がみつかる。

そこにいつも駐車してある車が多摩川土手で見つかり中から男性の手首らしきものが見つかる。

行方不明となっている高岡賢一のものではないかとして捜査がすすめられるが…。

『ストロベリーナイト』に続いてということで前作は必読といいたいとこだが、そうでもない(._.;)
 
読んでいたらより楽しめるといえるぐらいだ。

竹内結子が演じるというから驚きだΣ(゚ロ゚;)

本編に話を戻そう。

前作ではガンテツこと勝俣が姫川と争っていたが、今回は日下という警部補が姫川と争う。

彼と姫川は犬猿の仲(※姫川が一方的に敵視している)で、勘に頼りがちな姫川と違い、一切の予断を許さない事実のみを基に捜査するというスタイルの人物だ。

機械のごとくたとえられるが、家庭を犠牲にしている点では少し人間くさい描写があり、彼の境遇にも同情する。

警察小説はあまり読まないほうだが、このシリーズの続編は読みたいと思っている。

■『そして誰もいなくなった〜TEN LITTLE NIGGERS〜』08/05/06UP



アガサ・クリスティー Agatha Christie

訳:清水俊二 早川書房

まじでいなくなっちゃった

〜あらすじ〜

インディアン島に別荘を建てた大富豪オーエン氏に招かれた10名の男女。

しかし屋敷には主人の姿はなく使用人の夫婦がいただけ。

戸惑う一行を襲った、夕食の席での謎の告発。

10名の男女に待ち受けるものは一体…。

あまりにも有名な推理小説。

マザーグースのインディアンの歌にしたがって島に集められた登場人物たちが次々に殺されていく。

童謡殺人というやつでその土地で歌い継がれていく子守唄、民謡などになぞらえて犯人が殺人を重ねていくってやつだ。

さらに、孤島に閉じ込められるというおまけつき。

登場人物は、仕切り屋の元判事、ツン微デレ家庭教師、医者、いいとこなしの青年、老婦人、探偵、元陸軍大尉、元将軍、そして召使の夫婦。

お約束の犯人はこの中にいるというやつだ。

ちなみにこれらの登場人物は過去に後ろめたいことを持っていて、謎の告発でご丁寧に明らかにされる。

ページ数は少ないのですぐ読み終えることが出来ると思う。

ただ、古本屋で買った文庫版は字が小さかったのですぐ眠くなった。

■『卒業‐雪月花殺人ゲーム‐』08/04/20UP



東野圭吾 講談社

茶道と剣道とテニス

〜あらすじ〜

T大4年生になった高校時代からの仲良し7人組、そのうち2人が住む白鷺荘で牧村祥子が死ぬ。

事件の捜査に乗り出したのは東野圭吾シリーズでおなじみ加賀恭一郎。

他者からみた加賀の描写と違い、彼自身の独白もあり非常に新鮮。

ドラマ『ガリレオ』で湯川が一躍有名になったが、東野圭吾の看板探偵は彼だ。

意外だったのが、彼の学部が社会学部だったこと。

あれだけ論理的な推理をするので、理系の学部だと思っていた。

東野圭吾初期の頃の作品でバリバリの本格青春推理小説。

白鷺荘での密室トリック、雪月花之式でのトリックはとても難しかった。

とくに雪月花之式のトリックは活字で説明されてもさっぱりわからなかった。

何度読み直してもすぐ忘れて何度も楽しめる。

加賀恭一郎最初の事件、ぜひお読みください。
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